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「なぜそう訳したの?」が分かる AI翻訳- DeepSeek R1で台湾ニュースを読んでみた -(全文無料)

きっかけ

今回のバービー・スーさんの訃報は、日本と台湾はもちろん、香港でも大きなニュースとなりました。香港人の妻が、「なぜ医療の進んだ日本でこんなことになるの?」と質問してきたこともあり、香港と日本での報道を理解するためにウェブにあった報道記事を翻訳してみました。

なぜDeepSeek R1を選んだのか

中国語の翻訳ということで、中国発のAIであるDeepSeek R1がいいのではと、ChatGPTではなくDeepSeek R1で翻訳してみました。以前のコラムでも触れましたが、このツールには興味深い特徴があります。それは翻訳の「思考過程」が見えることです。

元記事

Yahoo香港 - 大S猝逝:疑似急診科記錄 血氧值89% 患者執意出院

DeepSeek R1による翻訳結果

台湾人女優の大S(徐熙媛)がインフルエンザによる肺炎の合併症で日本で死去し、3日に現地で火葬されたことを報じています。急逝の背景について、ネット上で流出したとされる医療記録や関係者の証言から、以下の経緯が明らかになっています。

病状の悪化経過
・血中酸素飽和度が89%まで低下し、肺に湿性ラ音が確認された状態で、解熱注射後にホテルでの経過観察を選択

・医療チームが東京総合病院への転院を勧告したが、帰国便の手配を理由に拒否

・帰路で呼吸停止が発生し、最寄りの診療所に緊急搬送された際のCT検査で両肺が白肺状態に

関係者の証言
・現地ガイドによると、1月1日に東京での定期受診を予定していたが本人が延期

・日本人医師の分析では:(1)箱根・北海道の地方病院に集中治療室がないため転院が必要だった (2)外国人患者への300%加算制度と言語障壁が治療遅延の要因と指摘

ネットユーザーは「インフルエンザ合併症の危険性が軽視された」「医療判断の遅れが致命傷となった」と推測しています。現地の医療制度と患者側の判断が重なり、予後不良に至った可能性が示唆される事例です。

on.cc東網專訊から翻訳

AIの推論過程

DeepSeek R1では、翻訳文を生成する際に、下のような推論過程を表示します。(黄色マーカーは気になった部分に私が入れました)

推論過程のスクリーンショット

従来のAI翻訳との違い

従来のAI翻訳では、入力された原文から訳文が出力されるまでのプロセスはブラックボックスのように不透明でした。一方、DeepSeek R1は翻訳作業の各段階で何を考慮し、どのような判断を行っているのかを明示的に表示します。

私が特に驚いたのは、黄色マーカーで示したような「訃報というデリケートな記事なので敬意を払いながら翻訳する」といったより人間らしい部分です。言葉の選択一つ一つに、文化的背景や状況への配慮が見え隠れします。

例えば今回の記事では、医療用語の選択理由や、文化的な背景の考慮、さらには故人に対する敬意を払うべき表現の扱いまで、細かな判断過程を順を追って確認できました。特に気になったのは中国語の医療用語の解釈や、日本の医療システムに対する現地の視点なども、翻訳過程で丁寧に説明されていました。

ChatGPTとの比較

実際に同じ記事を ChatGPT o3-mini でも試してみました。ChatGPTも翻訳の際に推論は行っていますが、その結果はサマリー形式での表示にとどまり、DeepSeek R1のような詳細な説明過程は示されませんでした。

これは大きな違いといえます。DeepSeek R1では「なぜその表現を選んだのか」「どういう文化的背景を考慮したのか」といった細かい判断の過程を、順を追って確認できます。一方、ChatGPTでは最終的な翻訳結果と、その判断のポイントだけが箇条書きで示されるのみでした。

DeepSeek R1の利点

  1. 信頼性の向上:AIがなぜその訳語を選択したのか、どのような文脈を考慮したのかが明確になることで、ユーザーは結果に対してより深い理解と納得を得られます。

  2. 修正・改善の容易さ:推論過程が可視化されることで、もし結果に違和感があった場合、どの段階で判断の誤りが生じたのかを特定しやすくなります。

結論:より身近になる外国語コンテンツ

このツールを使ってみて、外国語メディアを読む体験が大きく変わりそうだと感じています。翻訳結果に対する理解が深まるだけでなく、「なぜそう訳されたのか」がわかることで、納得感も増します。誤訳があっても、その判断過程をたどることで修正のヒントが得られます。

海外メディアの記事は「翻訳の壁」で読むのを諦めがちでした。でも、AIが考えを見せながら翻訳してくれることで、その壁が少し低くなったように思います。むしろ、異なる言語や文化の視点を理解する手助けをしてくれているようです。

「なぜそう訳したの?」という問いに丁寧に答えてくれるAI。このような「思考の可視化」は、私たちとAIとの新しい関係性を示唆しています。ブラックボックスではなく、一緒に考えるパートナーとして、AIと付き合っていく、そんな時代なんでしょうね。

ということで、AIの丁寧な翻訳のおかげで、専門的な医療用語を含む記事の内容を、妻にもしっかりと説明することができました。

注記:使用したAIについて

本稿で検証に使用したDeepSeek R1は、中国企業DeepSeekが開発したAIモデルですが、今回は中国でホストされているオリジナルのサービスではなく、アメリカのPerplexityが独自に米国でホストし提供しているバージョンを利用しています。

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