チンクエ・テッレの奇跡:カメラが捉えなかった最高の一枚
薄れゆく記憶をその時に撮った写真を見返しながら呼び起こすというのは不思議な感覚ですね。写真を見るほどにドンドンと蘇ってくるのです。
しかし時に、最も鮮明に記憶に残るのは、カメラに収められなかった瞬間だったりするものです。
2016年9月、私たちはイタリアのチンクエ・テッレを訪れました。
チンクエ・テッレとは「5つの土地」という意味で、リグリア海岸の急斜面に色とりどりの家が立ち並ぶ5つの美しい集落の総称です。
効率よく回るため、現地ツアーを予約していましたが、待ち合わせ場所のフィレンツェ駅で予定のガイドが現れず、急遽、南米客向けのツアーに合流することになりました。
東南端(右端)から
1.リオマッジョーレ (Riomaggiore)
2.マナローラ (Manarola)
3.コルニリア (Corniglia)
4.ヴェルナッツァ (Vernazza)
5.モンテロッソ・アル・マーレ (Monterosso al Mare)
同行しているのは南米チリからの観光客が多かったように覚えています。ガイドさんも9割スペイン語、時々我々のために英語で。
東南端のリオマッジョーレから始まり、美しい海岸線に沿って集落を巡る旅。
これぞチンクエ・テッレという佇まい。よくもこんな急斜面にこれだけの住居を建てたものです。
で次の集落への移動はこの船で。
で、次はマナローラだと思っていたら2つ飛ばしてヴェルナッツァに
5つを効率的に回るために2つ飛ばすとはイタリアやのぉ
こんな感じの可愛らしいお土産屋さんが並んでいます。
そしていよいよ最後のモンテロッソへ
ここの移動はバスと列車だったと記憶しています。
列車を降りてトボトボと歩いていきます。
最後のモンテロッソでは見事に整列したビーチパラソル群が私たちを出迎えてくれました。カメラのシャッターを切る音が、まるで旅の BGM のように響いていました。
そしてモンテロッソ観光が終わり列車でもと来たバスに戻ります。
ツアーの間、私たち日本人3人組は、集合時間の5分前には必ず戻るという時間厳守の姿勢で、ガイドさんから「日本人の時間厳守は噂通り素晴らしい!」とお褒めの言葉をいただいていました。
しかし、最後のモンテロッソでの観光を終え、帰りの列車に乗る際、思わぬハプニングが起こります。
気づけば周りに見慣れた顔がなく、慌てて列車を降りるも、来たときのバスはどこにも見当たりません。野生の勘が働いたのか、「もう一駅先だ!」と叫び、三人で次の列車に飛び乗ったのです。
次の駅で降り、「もうさすがに誰もいないよね」と諦めかけながら最後の角を曲がったその時、驚きの光景が広がりました。
バスの前に南米旅行者の皆さんが整列し、私たちに向かって手を振り、「よく帰ってきたぞ、日本人!」と声をかけてくれたのです。
恥ずかしさと申し訳なさ、そして嬉しさが入り混じり、顔を上げることもできない私たち。この瞬間、カメラを向けることはできませんでしたが、その光景は8年たった今も脳裏の「ネガ」に鮮明に焼き付いています。
時間厳守で知られる日本人が、最後の最後で大遅刻をしてしまうという皮肉。しかし、南米の人々の明るさと温かさが、私たちの「ネガ」を最高の「ポジティブ」へと変えてくれました。
チンクエ・テッレの美しい風景の数々は、たくさんの写真として残っています。でも、最も心に残る一枚は、カメラには収められなかった、あの温かい出迎えの瞬間なのです。時に、人々の優しさこそが、旅の風景を最も美しく彩る存在なのかもしれません。