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谷川温泉 男二人旅②【水上 米屋旅館~土合駅散歩】

<前回はこちら>

 沼田から北上し、到着したのは上越線は水上駅。数分すると下り列車が入線、改札を出てきたYさんと合流した。定期的に顔を合わせている二名を私が引き合わせる形となった。

 「お二人は初めてですか。そんな気がしないです。宿も同じようなところ行ってますものね」

 温泉好きの中でも、食事を重視する者、サービス・接客を重視する者、意匠の凝らされた建築美、或は風光明媚な絶景露天風呂を好む者、価値観は人それぞれ。そんな中にあって、少々ボロい宿でも委細構わず、源泉の質と湯遣いに拘る両人。同朋意識からか、何とも自然にアイスブレイクし、私たちは廃墟群と化した水上温泉街へと向かうことにした。

水上温泉街

私 「水上温泉、泊りは松乃井に昔行ったきりです。大箱が多い印象で、良質な湯を探すの難儀しそうで」
K 「天野屋旅館(現在日帰りのみ営業)、松乃井の内湯、あと諏訪のメメメ苑はかけ流しです。この辺では貴重ですよ」
私 「メメメ苑、〇×の巣窟の印象で、もう行かないです」

Y 「あれっ、米屋旅館さんやってますかね。旗出てますよ」
K 「もうとっくに辞めてたと思っていました。こちらは旧湯源泉ですよ。この辺りでは貴重です。入ってみますか」

 寂れた温泉街に何の違和感もなく溶け込んでいた米屋旅館。館内に入ったものの、待てど暮らせど番頭が現れず、呼び鈴を押しても尚誰も出て来ない。だが確かに、フロント奥からテレビの音と調理場から人の気配を感じる。

 湯浴み乞いをすること5分、ようやく調理場から現れた男性と帳場の奥から出てきた老父。どうも親子のようだ。

男性 「うちは昔からの源泉をかけ流しにしています。水上の中でも珍しいですよ」「あっ、ごめんない、女性湯はまだ湯が張れてなくて」
Y 「折角なのでKさんとヨシタカさん入った方が、、私温泉公園の足湯で待ってますよ」
K 「すぐに出ますので」

昭和感漂う米屋旅館の外観

 外観のイメージそのままに激しい館内。男性のエスコート付で薄暗い廊下を進み浴室へ向かう。戸を開けるとブルーの壁面タイルにピンクの床タイル、湯底は変色して黒ずんでいた。

 三色のコントラストが妖しく映える浴槽、無造作に放り込まれた湯抜きホースでは排湯が間に合わず、源泉がタイルを舐めるように滔滔と流れる。

K 「こちらの湯、昔の温泉本を見ると循環とあるのですが、他の宿が辞めたために湯量が増したんですかね」
私 「見事なオーバーフローです。周りの宿が潰れると残った宿の湯がビルドアップしますよね。金湯館(霧積温泉)も確かそのようでした」

K 「おおおっ、効きますよこれ!」
私 「40度ないですね」
K 「何時間でも入ってられます」
私 「素泊まり4,000円ですと」
K 「今度2泊しても良きです。日中動かずに浸かっていたいですね」
私 「ささ、そろそろ出ましょう。Yさんを待たせ過ぎました」

米屋旅館内湯 かけ流しがオーバーフロー

 温泉公園の足湯で待つYさんと合流し街歩きを再開。鬼怒川や会津東山温泉と比肩する廃墟温泉街。夜を歩けば鬼火でも出そうな具合だ。

 三人の食指が動くのは、新館よりも旧館、旅籠より自炊棟、新店のビアバーよりも、シャッターが下りた遊技場にもぬけの殻となったお土産屋。そして、鉄筋コンクリート造の巨大旅館狭間にひっそりと建つ、くすんだ外壁の、今にも倒れそうな小さな旅館。

 「ボロ宿に名湯あり」

ーー愚生、気が付くと鄙びた温泉地に行き、ボロい宿にばかり泊まってしまいます。安くて財布に優しいのはその通りなのですが、それだけではないような気がします。

 痛みのない日常を送っていた頃をほとんど覚えていません。頸動脈に稲妻が落ちるように、突然身体が痺れ、激痛が全身を打擲します。そんな生活の中で、ふと哀傷から解放される瞬間。頽廃寸前の街を歩き、歯抜けとなったタイルの湯舟に浸かり、剥がれかかった壁紙の和室に横になる時。
 
 ふうと息を吐くと幻影に憑依し、ガラクタとなった自分を俯瞰し慰めているような気がします。青々とした静かな興奮を覚え陶酔するのですーー

???

 水上を離れ、私たちは日本一のモグラ駅として知られる土合駅へと向かった。地下のホームへと続く462段の階段を降りていく。

Y 「階段の側溝に謎水が流れていて、茶褐色に濁っているんですよね。あれを汲みたくて」
K 「あれは冷鉱泉ですよ。地下を掘る時に湯脈に当たったのかと」
私 「あっ!見えてきましたよ。本当に冷たい」
Y 「家にペットボトルが大量にあって、いろんなところで源泉を汲んで来ては保管しているんですが、どれがどれか分からなくなっちゃって。10年近く経つものもあります」
私 「(苦笑)」

 土合駅の地下ホームまでを往復し、その後Yさんを湯檜曽温泉街で降ろした。やはりこの街で最も安く、大正時代創業の年季の入った宿に泊まるという。

私 「それじゃ、ここで」
Y 「ではあとは二人で楽しんで来てください」
K 「またどこかで」

 ここからは再び男二人。みなかみ町は谷川温泉、未踏の奥地へと向かっていきました。

つづく

土合駅地下ホームへの階段
謎水 金気臭あり
地下ホーム
土合駅 モグラトンネル
トンネルを中から

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ヨシタカ
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