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「いい夜ふかし」 と 「わるい夜ふかし」


小粒の気泡がふつふつと沸き上がり、
鍋のなかをコト、コト、と揺らしています。
小豆は水を吸って
ややふっくらとしてきました。
湯気には
小豆の香りがふわぁっと乗ってきて
台所が、ほの甘い香りに包まれてゆきます。


金曜の晩のこと。
早く寝ないと体に良くないよ、と
家族に言われつつも、
私はちょっぴり夜ふかしをして
あんこ作りに挑戦しました。



きっかけは
お正月に実家から持ち帰った古い料理本です。
そこに粒あんの作り方が載っていたのです。
あんこづくりと言うと、
素人には難しいものと思っていましたが、
どうやら必要なのは、小豆と塩と砂糖とお水。
それから、たっぷりの時間だけです。

タッパーいっぱいに作ったあんこを
スプーン山盛りで頬張れたら、
どんなにうれしいだろうかと考えて
どうしても、作ってみたくなりました。


冬の夜は、どこまでも静かでした。
ひっそりとした、心地よい孤独感があります。
私は、白い湯気のあがる鍋に顔を寄せて
そっと耳を凝らしてみました。
プチ、プチプチ、、
気泡のはじけるかわいい音がしています。
まるで、お豆さんたちが
ひそひそ話をしているみたいです。

静けさのおかげで、
こんなちいさな音まで活かされて
小豆を炊く愉しさが、いっそう膨らんでいます。



大豆と比べてちいさいから小豆。
赤色の「あ」と
溶けるを意味する「ずき(つき)」を組み合わせ
煮崩れしやすいこの赤いお豆さんのことを
「あずき」と呼ぶようになったのだとか。
さらに、その赤色は
生命を象徴する色として、
小豆には邪気祓いの力があると
古くから考えられてきました。


色、というと、
この赤い豆とは対照的に
真っ白な雪が、今夜もこんこんと降り積もり
町じゅうを
白一色に染めています。
きっと明日も冷える一日になるでしょう。
寒いのは苦手だけれど
朝ごはんに、お餅を焼いて
あたたかいぜんざいを食べよう、と
決めると、わくわくしてきます。



静かな夜に、じっくりコトコト、
美味しいものをこしらえる。

夜ふかしは良くない、と言われますけれど
明日が楽しみになるような、
こんな夜更かしなら、
「いい夜ふかし」と言ってもよいでしょうか。

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ち あ き
これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿