見出し画像

本紹介_知の技法 東京大学出版会

 本記事では、知の技法 - 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト - について紹介します。

はじめに
 この本は、東京大学教養学部で、1993年度から文科系の1年生を対象として設けられている必修科目「基礎演習」のサブテキストとして編集されたものです。
 この科目は文科系の学生が、将来どのような専門領域を研究するにしても、必ず身に着けておかなければならないきわめて基本的な知の技法を、実践的に学ぶことを主眼として開設されています。
 問題の立て方、認識の方法、論文の書き方、発表の仕方など、学問の行為を構成しているさまざまな手順には、それぞれの時代に、一定程度、共有されている技術ないし作法があります。
 大学で学ぶということは、個別的な学問領域の成果を学ぶだけでなく、そうした知の技法を習得するということでもあるわけで、むしろそれこそが、大学という知の共同体を基本的に支えているものなのです。
 この本は、次のように構成されています。
第一部 学問の行為論 - 誰のための真理か
 ここでは、理科系学問とは異なった文科系学問の特徴を原理的に考察し、同時に大学という場の使命について論じています。
第二部 認識の技術 - アクチュアリティと多様なアプローチ
 ここでは、現在の学問的な認識において、実際に用いられているいくつかの方法を取り上げ、それをもっともアクチュアルな問題と結びつけて応用しています。具体的な現場で、それぞれの技術がどのような眼差し、どのような手つきによって応用してもらうのかを見てもらうのが狙いです。
第三部 表現の技術 - 他者理解から自己表現へ - 
 ここがこの本の最も実用的な部分ですが、どのように論文を書くのか、どのように口頭発表をするのか、について具体的な例を挙げながら、説明しています。参考文献の出し方、引用や註(ちゅう)の仕方など、レポートから博士論文の執筆にまで役立つように、さまざまな原則や注意を集成してあります。

知の技法、P1 - P3 より引用

目次
第一部 学問の行為論 - 誰のための真理か
第二部 認識の技術 - アクチュアリティと多様なアプローチ

〔現場のダイナミクス〕
フィールドワーク
史料
アンケート
〔言語の論理〕
解釈 - 作品の声を聞く - 
解釈 - 漱石テクストの多様な読解可能性 - 
検索 - コンコーダンスが開く言葉の冒険旅行 - 
構造 - ドラゴン・クエストから言語の本質へ
〔イメージと構造〕
レトリック
統計
モデル
コンピューティング
〔複数の視点〕
比較
アクチュアリティ
関係
第三部 表現の技術 - 他者理解から自己表現へ - 
0. 表現するに足る議論とは何か
1. 論群を書くとはどのようなことか
2. 論文の作法
3. 口頭発表の作法と技法
4. テクノロジーの利用
5. 調査の方法
結び
 執筆者紹介

知の技法、P4 - P5 より引用

 この本では、文科系の学問(人文科学、社会科学)の特徴をいくつかの主要なポイントに従って考察されており、それを通じて大学という制度の中で知の最低限の倫理を考える機会を得ることができます。

知の技法のAmazon のページ

※中古本は、1円(+配送料250円)~の価格で販売されています(2025年1月21日時点)。

この本を読んだ感想

・文科系の学問領域中の、特に文学領域がどのようなことを学ぶのかを知りたかったので、本書を読んで満足しています。
・英文学の翻訳の実例について、機械的な翻訳文と、文学者が翻訳した文章の違いが挙げられ、解説文を精読することで、前記2つの違いがよくわかりました。本書の中で、この実例が最も感動しました。
・作家が創り出す物語の構造には、一定のパターンが存在することを、既に過去の研究者らが発見してしたことに感動しました。AI にビッグデータを解析させて何らかの知見を得る前に、過去の学術論文を精査することの方が先なのではないか、と考えました。

 前の記事でも紹介した「知の技法」入門を読んでから知の技法を読むことで、理解が深まると思います。

以上。

いいなと思ったら応援しよう!