自己刷新のカギは「フィードバック」
「フィードバック」という言葉の意味を、ご存じでしょうか?
フィードバックとは?
語源をたどると諸説あるようですが、われわれコーチが学ぶフィードバックとは、「クライアントに、見えた姿をありのまま伝えること」です。
大砲の訓練で言うと、以下のようになります。
射手が撃った砲弾が目標地点からどれくらいずれているかを正確に射手に伝えるというのが、フィードバックの原則です。
この時、例えば目標地点から東に50mずれていたら、「東50mに着弾」と伝えるということが大切です。
けっして、「東に大きくずれているぞ! 何回言ったらわかるんだ!」
とか、
「西に1度、向きを変えた方がいいぞ」
などというのは、フィードバックとは言いません。
つまり、相手が自分で考えて、自分で修正し自己刷新できるように、相手の成長のためを思って事実をありのまま伝えることが、フィードバックの真髄です。
ドラッカーが重視したフィードバック
ドラッカー学会のホームページには初歩から学べるドラッカー研究の入門サイトが用意されています。
この中で、「初めて学ぶドラッカーの極意」として、5つのエッセンスが示されていますが、その一つが「フィードバック」です。
ちなみに5つとは、「マネジメント」「マーケティング」「イノベーション」「フィードバック」「5つの質問」です。
ドラッカーの教えの極めて中核的な5つのエッセンスに「フィードバック」が挙げられていることに驚く人もいるかも知れません。
それほどドラッカーは「フィードバック」を重要視しています。
ドラッカーは、人も企業も自己刷新(Self-Renewal)し、今よりもさらに成長していくために、必要不可欠なものは「フィードバック」だと繰り返し教えています。
理由は明確です。
人も企業も社会の中で生きていて、成果は自身の外部にあるにもかかわらず、自分で自分の姿を見ることができないのだから、決意したことを紙に書いておいて1年後に見比べてみるとか、さもなければ周りの人に教えてもらいなさいということです。
マネージャーは顧客や部下に聞きに行け
ドラッカーは、成果をあげたいと思うならば自ら積極的に「フィードバック」を求めなければならないと教えています。
例えば、経営者は定期的に上得意の顧客に「フィードバック」を求めに行きなさいと言います。
「我が社は他社にできない、どのようなよい仕事をしていますか?」
「我が社の製品やサービスで、御社が求める価値を満たしていないことは何ですか?」
これはいわゆる「マーケティング」の一環ですが、マーケティングとは顧客からのフィードバックの集積のような活動です。
事業は顧客が決めるものですから、顧客に聞かなければ何をやるべきなのか、本当はわからないはずです。
私が勤務していたメーカーでも、技術屋の「べき論」が横行していた時期がありました。
頭のいい人、よく仕事ができる人に限って「べき論」や「イズム」からモノを考え始めますが、これらは専横と独裁を生むだけで、成長も幸福ももたらさないことは歴史が証明しています。
ドラッカー自身、教えていたニューヨーク大学やクレアモント大学で、卒業後5年経過した教え子に電話をして、「大学での授業は君の今の仕事にどのように役に立っているか」「大学での授業が、さらに君たちの成果に貢献するために何が必要か?」を聞いていたと言います。
また、上司は部下にこう聞きなさいと教えます。
「あなたが組織に貢献するために、私はあなたにどのような貢献をしなければならないと思いますか?」
「あなたの仕事に貢献せずに、ただ時間を浪費させるようなことを私はしていますか?」
上司はパワーを持っていますが、そのパワーが部下の成長と組織への貢献のために生産的に使われているのかを、部下からの「フィードバック」によって常に確認しなさいということです。
上司としてのあなたのパワーが、もしかすると部下や組織の成長の邪魔になっているかも知れないということは、あなた自身で気づくことは困難です。
ということは、この「フィードバック」によって、部下や組織だけでなく、あなた自身の成長にも大いに役立つはずです。
フィードバックこそが人や企業を成長させる鍵となります。
いくつになっても、どんな立場になっても、恥ずかしがらずに謙虚な姿勢でフィードバックをもらいに行ってください。
今よりもっと成長するための、驚くべき貴重な答えがあるかもしれません。