幻想、融合、迎合
あなたは幸せ?
幸せってなあに?
それはね……
幸せの形はたくさんある筈だ。しかし自分に合ったそれを探しそして手に入れるのは難しい。だからこそ人間は出来合いの幸せを手に入れて自分が幸福なのだと信じようとする。
恋人がいたら幸せ。結婚したら幸せ。子供がいたら幸せ。出世をしたら、お金持ちになったら、有名になったら、才能を認められたら、一番になれたら……
そんなファストフードのセットみたいな出来合いの幸せを人々は追い求める。
立ち止まるのは怖い。幸せってなんだっけ?何が欲しいんだっけ?どうなりたいんだっけ?ほとんどの人はそんなこと考えもしない。みんながそう言うから、ただそれだけで出来合いの幸せを追い求めて奔走する。
まあ、そうするなら個人の勝手だ。でもその「考えなさ」がもたらす結果は大抵悪い。その結婚相手で大丈夫ですか、DVやモラハラや義実家との関係は。まさか知らなかったのなんて言うのですか?子供を作って大丈夫ですか。世話にかかる膨大な時間とお金、健やかな発達のために気にかけねばならぬ数々のこと、それらを知っていますか。まさかこんなつもりじゃなかったって言うのですか?子供が自分のせいで生きづらい思いをしても。出世をして、忙しくして、失う健康や趣味やその他諸々。そんなつもりじゃなかったんだって言うつもりですか、部下をストレスの捌け口にしてパワハラしても。
その「考えなさ」の責任を取れるのですか?
考えた末にやっぱり結婚する、子供が欲しい、出世する、とかなら良いと思う。その過程で誰かを傷つけても、その罪を背負えるならそれでも良いのかもしれない。けれどそこまで考える人っているのかなあ?
小さな「考えなさ」でも人を傷つける。軽く話題にした恋バナ。きみの隣で愛想笑いしてるあの子は、性的マイノリティであることをきみに黙ってるのかもしれないよ。将来子供にさせたい習い事やなんかで盛り上がっている時、輪の端っこでぼんやり話を聞いているあの子。かつて虐待を受けていたかもしれないよ。彼ら彼女らは、そして僕もだけれど、そのたびに心を殺して沈黙している。
いや、僕もそんなに偉そうなことは言えない。多数派に迎合して愛想笑いしているのだから。無意識に口にした言葉が誰かを傷つけているのかもしれないのだから。
僕たち人間に多様性だなんて無理だ。だから軽々しく多様性を大事にとか言ったところで、その「考えなさ」が余計にひとを傷つける。いいですね、耳触りのいいことだけ言っていられるひとたちは。でも彼らの純粋さが眩しい。悪い人もきっといるね、そのスローガンを使って人を騙してお金儲けしてるかもね。
無理とは言っても、そこで全部諦めてはいおしまいです差別は消えません、なんてのも無責任だ。どこに差別があるのだろう。きっときみの想像の外、僕の考えの外だ。それを見つけて、ひとつずつ覚える。不器用だけれどそうするしかない。苦しんでいるひとたちを見捨てるわけにはいかない。
案外、多様性が大事とか差別をやめようとか人権とか言ってないで、苦しんでいるひとを見逃さないで見捨てないで、だけで良いのかもしれない。でもまた苦しいよって言いやすい人だけが助かっちゃったりするのかな。だからこそ見過ごさない方法を探さなくちゃいけないな。
人間って愚かだ。幻想と共に生きるしかない。大抵の人は常識の中で生きるしかない。僕とてそこまで自由ではない。むしろ常識の中で生きている方が楽かもしれない。でもそれで人を傷つけるなんて、自分が後悔するなんて、嫌だなと思う。
誰もいない世界に行きたい。それか人類全ての意識を一つにしたい。そうしたら差別もなにもないよ。そんなことできないけど。