だからあのときね、

　だからあのとき死んでおけば良かったのかな。

　あのとき、がいつなのか分からないけれど。初めて死のうと考えた小学生の頃、深夜徘徊を繰り返していたあの頃、酒浸りだったあの頃、自傷ばっかりしていたあの頃、未遂をしたあのとき。

　お母さんに「あの時は辛くて死にたかったけど子どもを遺して死ねないと思ったし、道連れにしようとも思わなかった」って言われて、それで、ああやっぱり僕死んでおけば良かったんだと思った。それか生まれてこなければ良かった。お母さんが言うあの時っていうのは僕が小学校3年生くらいの頃で、いちばんおうちが嫌いだった時で、飛び降りて死のうか迷っていた時だった。お母さんが辛そうにしているのはその時にも既に分かっていた。でも僕だって辛かった。だから分かって欲しくて、でもお母さんにそんな負担なんてかけられなくて、だから死のうと思っていた。生まれてこなければ良かったのにと思っていた。弟だってそう。弟は何にも悪くないのに。

　やっぱりあのとき殺しておけばよかった、おうちにいたかいじゅうを。あのとき、がいつか分からないけれど。何かで殴ろうと思ったあのとき、包丁で刺そうと思ったあのとき、車で轢こうと思ったあのとき。そのどれか、あるいはそのどれも。

　でも結局どちらも成し遂げることのないまま今日まで生き延びてきてしまった。やっぱり死にたくない。楽しいことも、やりたいこともたくさんあるから。大事なひともいるから。でも死にたい。それは病気のせい、あの言葉のせい、あの態度のせい。
　やっぱり殺したい、それで全て終わりにしたい。でも出来ない。悲しむ人がいるから、僕には夢があるから。

　どうしたらいいんだろう。こんなこと考えるのは病気のせい？そうかも。でも病気になったのは僕の生物学上の親のせい？そうかも。どうしたらいい？分かんない。この先いいことあるのかな。たぶんあるよね、たくさんあるよね。でも辛いこともきっとあるな、乗り越えられる自信がないな。
　あのときやっぱり、の亡霊たちが僕に憑いて廻る。責め立てるように、背後に立って、僕を突き落としてやろうと機会をうかがっている。ふとした瞬間その亡霊たちの存在を思い出す。触れられそうなほど鮮明に。僕はそいつらの手を取ってしまいそうになる。
　亡霊たちは僕の親の顔をしている。優しかったときもある。でも死にたいほど苦しめられたこともある。どうしたらいいの、分かんないよ。分かんないの。僕助かるのかな。助けて、全部忘れたいの、何もかもなかったことにしてよ。