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東京大学2016年国語第4問 『青空の中和のあとで』堀江敏幸

 とても解答しにくい問題という印象だ。
 普通の人は晴れた日に外を歩いていて「これから降るらしい」という情報をたまたま得たら、「雨が降るのはいやだな。でも、事前に知ることができてよかった。雨をしのぐための準備ができる」くらいの思考をめぐらせると思うのだが、筆者は不意打ちのような天候の崩れに救いを求め、予報には息苦しさを覚えるというのだ。
 なかなか共感しにくい内容だが、それはそれとして著者の独特の論理をたどり、筋道を立てて解答をつくるしかない。心理的には賛同できないことでも、著者にかわって説明してあげなければならないのが、「現代文」という科目なのだ。

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(一)「何かひどく損をした気さえする」(傍線部ア)とあるが、なぜそういう気がするのか、説明せよ。
 
筆者が「損をした」気になるのは、「これから降るらしい」という予報を小耳にはさんだ場合である。
 筆者は、「空気が冷たくなり、影をつくらない自然の調光がほどこされて、あたりが暗く沈んでゆく」様子や「強烈な夏の陽射しと対になって頭上に迫ってくる空が、とつぜん黒々とした雲に覆われ、暗幕を下ろしたみたいに世の中が一変するさま」を、「青の異変」「青空の青に不穏のにおいが混じる」状況、つまり晴天が急変する予兆ととらえる。
 そして、「平らかな空がいかにかりそめの状態であるのか、不意打ちのように示してくれる午後の天候の崩れに、ある種の救いを求めている」のである。それは、「そのあとさらになにかが起きるのではないかとの期待感がつのり、嵐の前ではなく後でなら穏やかになると信じていた心に、それがちょっとした破れ目をつくる」からである。
 「破れ目」は問題文の後半にもあらわれる言葉だが、筆者はそれを「一瞬の、ありがたい仕合わせ」と見なしている。
 そして、「(この)感覚は、あらかじめ得られるものではない。自分のアンテナを通じて入って来た瞬間にそれが現実の出来事として生起する、つまり予感とほとんど時差のないひとつの体験」であるとしている。ということは、天候の急変を直前に感覚的に察知することで、期待感がつのり、幸福を感じる機会を得るのである。したがって、他者に予告されてしまうと、もはや「不意打ち」ではなくなり、その機会が失われるのだ。
 
以上のことから、「夏の晴天が急変する直前の予兆を感覚的に捉えることで期待感と幸福感を得る機会は、雨が他者に予告され不意のものでなくなれば失われるから。(66字)」という解答例ができる。

(二)「青は不思議な色である」(傍線部イ)とあるが、青のどういうところが不思議なのか、説明せよ。
 まず、「海の青は、手を沈めて水をすくったとたん青でなくなる。あの色は幻だといってもいい」とあり、「空の青も」「他の色を捨てたのではなく、それらといっしょになれなかった孤独な色でもある」とあるうえ、「じつは幻である」としている。これが第一の不思議である。
 次に、「しかし海は極端に色を変えたとき、幻を重い現実に変える力を持つ。」とあり、「天上の青」(つまり空の青)も「いったん空気中の分子につかまったあと放出された青い光の散乱にすぎない」うえ、「空の青こそが、いちばん平凡でいちばん穏やかな表情を見せながら、弾かれつづける青の粒の運動を静止したひろがりとして示す」としている。
 そして、そのうえで「日常に似ている」ともいっているが、これはどういう意味か。
 青は、日常も外見は平凡で静止し安定しているのだが、潜在的には幻を重い現実に変える力を持ち、放出され、散乱し、弾かれ続けるもので、エネルギーと運動を秘めているが、日常もまた「外から見るかぎりどこまでも平坦」なのに、「全体の均衡を崩す危険性」を秘めているので、その点において両者は共通しているのだ。
 以上をまとめると、「海の青も空の青も間近で見ると青ではなくなる点で幻のようであり、外見は安定しているようでも内実は不安定な点で日常と似ているところ。」(64字)という解答例ができあがる。

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