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銀河鉄道の父を観た

銀河鉄道の父を観た。
※ネタバレだらけなのでこれから観る予定の方はお戻りください!!




夫が一度観て、えらく感動したようで。
もう一度観に行くのだけど一緒に行く?と誘ってくれた。

この映画は、銀河鉄道の夜などの名作を生み出した宮沢賢治と、その家族を描いたお話である。

タイトルにもある通り、家族の中でもとりわけ物語の根幹をなすのは宮沢賢治の父だ。

お話は明治時代。
この時代の父親像を想像すると、亭主関白で子どもの世話なんて女の仕事だろう!というような頑固親父が出てくる人も少なくはないんじゃないだろうか。

その点、宮沢賢治の父はそういった想像の斜め上をいく。

悪くいえば親バカ、今の時代に沿って良く言えば、子ども思いのイクメンである。

幼い息子である賢治が入院したと聞くやいなや、家業を放って荷物を抱え(妻と義父に止められるも聞く耳持たず)家を飛び出して病院へ駆けつける始末だった。

夜も深まる中、横になる息子を看病し、子守唄を歌いながら寝かしつけをする。そして息子の病気をおそらくもらって自分も入院するオチ付きである。

賢治は成長していくにつれ、自分の目指すべき道は何なのかを必死に模索する。家業を継いでほしいという父の意向も頭にはあるが、どうにもそれは自分には向いていない気がしてならない。

かといって、その意向を振り払えるほどに目指したいものを見つけることも出来ず、ひたすら色々なものに興味を示そうとしては、暗闇の中でもがいていた。

愛しい妹は自分の書いた物語を読みたいと言ってはくれるものの、幼い頃のそんなような夢を賢治はもうみれなくなっていた。

何をするべきか、自分はどうあるべきかを考えて。自分は求められていることに応えられないと父に訴える。

衝突し、そして家を飛び出して。
しばらくして来たのは妹の病気の知らせだった。

知らせを聞いて宮沢賢治は、まず筆を取った。
ひたすら物語を書いて、トランクに原稿用紙を敷き詰め、それを持って立ち去った自分の家へと帰ったのだ。

結果これが作家宮沢賢治の誕生となる。

帰った賢治は妹の住まう離れで物語を読み聞かせる。そこにはかつて衝突した父の姿もあった。

妹は泣いて喜び、父は陰で賢治の読む物語の一節を1人で口ずさむ。

妹が亡くなり、賢治は妹が病気になってから住んでいた離れに身を置くようになった。
そこで物語を書き続け、時々農民へ講師のようなこともした。

かつて賢治に激昂した父も、賢治の書く物語は大好きなようで。売れない作家、宮沢賢治を誰よりも応援し続けた。

映画の中で、幾度も父が賢治の書いた物語に目を落とすシーンがある。その姿がどうにも優しい。

賢治は、自分の物語は子どものようなものだと言った。それに対して賢治の父は、それなら自分にとっては孫だと言ったのだ。

こんなに愛のある返しがあるのかと、ぽろぽろっと目から水が滴り落ちた。

宮沢賢治に関する私の知識なんて、雨ニモマケズという詩を作った人だよなぁくらいのもので。

NHKのにほんごであそぼで流れていたその詩が、幼い頃の私は意味も分からないくせになぜだかえらく気に入って。

いつしか暗唱できるようになり、よく母に聞かせては苦笑いを買っていた。

今改めてその詩を読んで。

なんて純朴で、静かで、優しくて。
それでいて控えめな詩なんだろうと思う。

映画が終わり、家に帰る電車の中で。

そういうものに私はなりたいなんて思えるものが、今の私自身にあるだろうかと少し考えた。

欲まみれの私に、きっと宮沢賢治のような詩は出てこない。

それを夫に伝えたところ、若干引きつつ笑われた。

日が落ちていく薄暗い空を窓越しに見つめながら、ずっとずっと、銀河鉄道の父のことを話していた。

おぼろ

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