1971年の大川芳子(臼田あさ美)ひとみを懐妊中 かぞかぞ⑧は、七実の祖母大川芳子(美保純)フィーチャー。三世代の母娘が描いてある。ALL WRITEでテレビドキュメンタリー「家族の流儀」取材の打ち合わせの最中、七実がおばあちゃんは「わけ分かんない人なんで撮らないで下さい」と発言し、小野寺から「おばあさんを嫌ってるね?」と問われ「ばあちゃんから勝手に嫌われるようなことしてくるっていうか」 との不穏なやり取りで始まる。 二階堂「家族は面倒くさいです」 七実「ん?」 二階堂「っていうことですよね?」七実「いや、ばあちゃんが面倒くさいっていう話です」 ⭐️この目力というか、目の色でセリフ以上のことを端的に伝える力量、さすがです。
【芳子、ひとりで娘のひとみを探し歩いている、塀に寄りかかり】芳子「ひとみちゃん、ひとみちゃん・・・いっぱい食べて、いっぱい元気にならなあかんのに・・・一生懸命、生きていかなならんのに・・・なんで、なんであの子ばっかりたいへんな目に遭うん・・・いやや、、、手術、手術て、身体切り刻まれて(ぽろぽろ涙がこぼれる)・・・かわいそうやろ・・・なんで・・・なんで、もっと元気に生んであげられんかった、(声がつまり)・・・ひとみ、ひとみちゃん・・・・(さめざめとすすり泣きながら地面に手をつく)」 芳子の手に小さな女の子の手がかぶさる 芳子「ひとみちゃん・・・おった」 幼いひとみ「おうち帰ろ」 芳子「びっくりした・・・」 ひとみ「なんで?」 芳子「ひとみちゃんがおらんようになったら、どうしよかと思てしもた・・あ、お母さんこんなことしてられへんのやった。晩ご飯のしたくせな」 ひとみ「(頷く)」 芳子「お父さんが帰って来てしもてるかもしれんよ。帰ろ、帰ろ」 ひとみ「うん」 二人、立ち上がり歩き始めると、横にいるのは七実。 七実「(じっと、芳子おばあちゃんの横顔を見つめ、ハンカチを渡す)」 芳子「ひとみちゃん、何食べたい?お魚、煮たん好きやろ?」 七実「(何も言わず、優しく微笑む)」 芳子「おうちにあったかな~」 歩く二人の後ろ姿
かぞかぞ⑧ 美保純の素直に、ただただ娘を想い、悔い、悲しむ様子にぐっと引きこまれてしまう。おばあちゃんの心の声を聞いて、七実のおばあちゃんに対する頑なな気持ちがほぐれ、優しく悲しみの混じった心根が、全身と表情、眼差しから伝わってくる。ホント、このドラマ、大久Dの演出、大好きや。河合優実も美保純も掛け値なしに素晴らしい。
【ひとみの病室】 七実がひとみにリンゴを剥いてあげながら会話している ひとみ「やっぱり大阪好きなんやな、お母さん」 七実「近所の人と触れあってて楽しそうやで」 ひとみ「あの人、外面ええから世間には愛されるんやな」 七実「そうかもな」 ひとみ「言うてもあの人にとっての世間て、家の周りだけやけどな。おじいちゃんがしてた工場の周りの仕事と家事しかしてこんかったし、結婚前に実家から奉公に出された人やからね」 七実「・・・奉公・・・なかなかやな・・・なるほどな、それで」 ひとみ「ん?」 七実「大阪の家でな、結婚前のじいいちゃんへのラブレター見つけてん」 ひとみ「ええっ!」 七実「ばあちゃん、幸せをかみしめてますって書いてたわ、ふふ。(剥いたリンゴを)ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん(と渡す)はい」 七実「奉公先から結婚して、自分の家族もつの嬉しかったんちゃう?」 ひとみ「へーえ」七実「・・・ばあちゃんにも人生の喜びみたいなもんちゃんとあったんやないかなぁ…うん、あったんやと思いたい」 ひとみ「あたしが子供の頃はなぁ、お母さん、いっつも忙しそうで、邪魔したらあかんって思ってたよ」七実「そうか・・・あんな・・・・・・ばあちゃん、認知症やな」 ひとみ「(リンゴを噛みながら七実をジっと見つめている)」 七実「ごめんな、こんな話、こんな場所で」 ひとみ「(目をはずし、宙をみながら小さな声で)・・・ううん」 七実「・・・」 ひとみ「・・・そやな・・・・・うん・・・分かってたんやけどな、分かってたんやけど・・だめや(おもむろにタオルで顔を覆い泣き始める)」 さめざめと泣き続ける母、ひとみに近づき、手で肩のあたりをさする七実。 ひとみ「(鳴き声で)なあ!」 七実「うん?」 ひとみ「ほんまに、お母さんには、人生の喜び、ちゃんとあったかな?」 七実「(も、こみあげてきて)うん。あったよ。今もある。ばあちゃん日々、進化中や」 ひとみ「(泣きながら)進化」 七実「うん。ばあちゃんどんどん進化して(泣くのを必死にこらえながら)どんどんオモロい人になっていくんや」 ひとみ「(さめざめと泣きながら)お母さん」 七実「だから、、大丈夫」 ひとみがタオルを顔から外す、横顔に涙がスーッと流れる。
かぞかぞ⑧ 母 芳子は、娘 ひとみを想い涙を流し、ひとみは母を想い涙を流す。傍にいる孫娘は、母とおばあちゃんの人生を想い、胸を詰まらせる。親子情愛のトライアングルが胸に迫ってくる。
秋の夕陽をあびながら歩く七実。 芳子「七実~」(マンションベランダから声をかける) 七実「おばあちゃん、帰ってたん」 芳子「七実これ好きやろ」 七実「ブタマン?」 芳子「そうや」 七実「(笑って)好きやわ」 芳子「やろ?はよ、あがって来」 七実「わかったぁ」 七実、少し歩いて、声をかける 七実「ばあちゃん?」 芳子「ん?」 七実「私がブタマン好きなこと覚えててくれてありがとう(感無量)」
かぞかぞ⑧ このドラマはドキュメンタリーではないが、岸田家の家族の話を基にしている。それだけに、岸田家の面々がドラマ化してもらって良かった、と思ってもらうのが一番大切。大久明子Dは、きっとこのドラマを岸田奈美さんやお母さんの岸田ひろ実さんたち家族に向けて作っているんだ、と思った。それは大久Dだけじゃなく、演者たち皆がそれを意識していると感じる。正にラブレターみたいな回に思えた。芳子さんの笑顔に、ニッキー・ホプキンスが奏でるShe’s a Rainbowのイントロが流れ始めたとき、クラクラしてしまうほどの感動を覚えた。ストーンズが書いた美しいメロディが活きるステキな選曲で、アウトロまでフル尺使用。大切な事は言葉やセリフで簡単に済ませず、ドラマ全体で伝える演出が本当に堪らなく好きだ。鮮やか。何度もみてしまう。
耕助は最後の方で1カットのみ。ひとみが最高に幸せな時間を共有した相手だ。その笑顔はどこまでも優しくて、信頼できる笑顔。芳子も、大切な娘がこの人と結婚できて幸せだ、と心底喜んだにちがいないことが、1カットで充分伝わってくる。
芳子「大事な一人娘が、私の作ったもの食べて大きいなって、大病しても生きてくれて、今も私の作ったものを食べてくれてる。私はしあわせ」
岸田ひろ実さんがこんなTweetをしていた。 「今夜の第8話。私の知らない母のことを知れた気がして。母に言ってもらいたかったことを聞けた気がして。母に言いたかったことが言えた気がして。心がす-っと軽くなった。芳子とひとみのとっても素敵なストーリーに涙」
家族だから愛したんじゃなくて、愛したら家族だった 【出演】河合優実/岸本七実、坂井真紀/ひとみ、吉田葵/草太、錦戸亮/耕助、美保純/大川芳子、福地桃子/マルチ(天ケ瀬環)、林遣都/小野寺、山田真歩/末永、古館寛治/TVP二階堂、根岸季衣、片桐はいりほか 草太担当:安田龍生 【原作】岸田奈美,【脚本】市之瀬浩子【演出 脚本】大九明子
P.S. 七実とマルチの口論、そして仲直りのエピソードも実に良かった。