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共通テストの朝に
我が家の長男は大学受験の真っ只中。
先週末は共通テストを受けた。
受験期でも普段どおりに過ごすことを心がけて、
家の中にピリついた空気はないけれど、
数日前から、私は徐々に緊張してきた。
とにもかくにも体調が大事。
想像するのも怖いけれど
体調不良の場合にとるべき対応をホームページで確認もした。
だから、当日の朝
長男が普段通りに起きてきて心底ホッとした。
私の任務は完了したも同然、と気が楽になる。
出かける前の長男に、あくまでも軽い調子で
「一緒に持ち物確認しなくていい?受験票もったよね?」
と声をかけると、
「大丈夫。」と言って、リュックから写真付きの受験票が入ったクリアファイルを取り出して見せてくれた。
とりあえず受験票と筆記用具があれば安心。
出発時間になった。
我が家には車がないから送っていけない。
何か特別な言葉をかけたほうがいいのかな
とも思ったけれど、
いつもどおりの
「いってらっしゃい。気をつけてね。」に
念を込めて言うのにとどめた。
長男は「いってきます。」と背中で言って
玄関を出る直前チラッとこちらを振り返り、
見送る私と目が合った。
これは、とてもレアなことだ。
私は毎朝長男を見送るけれど、
いつからか彼は振り返らなくなった。
私もそれに慣れてしまっていた。
しかも、
目が合ったときの長男の表情が一瞬
小さな頃の彼の顔に見えてハッとした。
幼稚園に上がる前、よくふたりで公園に行った。
ひとりで遊ぶ長男を少し離れたところから目で追っていると、ときおり思い出したように長男が私のほうを見る。
手を振ると笑顔で手を振り返してくれて、安心したようにまた遊び始める。
テスト当日を迎えて長男も緊張していたはず。
出かける前に私の顔をチラッと見て、
小さな頃のように安心してくれたのだろうか。
想像したら、めちゃくちゃ愛しさが湧いた。
そして、振り返った瞬間に自分が彼の視線をキャッチできて本当に良かったと思った。
こんなふうに思ったこと、長男には内緒だ。
私の勘違いかもしれないし、
「キモッ。」と思われても嫌だから。
勝手に私の脳内ライブラリーに宝物として保存することにする。
共通テスト二日目の朝。
「よし、今日も視線をキャッチするぞ。」
と、私は密かに気合いを入れて見送った。
でも、長男はいっさい振り返らず通常運転で玄関を出て行った。
テスト一日目で雰囲気がわかって慣れたのね…。
もう一度あの表情を見たかった気もするけれど、
あまり緊張していないのなら良かったよ。
受験において親ができることは少ない。
せめて、受験料の支払や書類の送付といった
事務手続をミスなくこなさねば、
と気を引き締める。