そんな場合じゃないんだわ
「親父、今入院してるんだよ」
水戸駅まで迎えにきてくれた弟の車に乗り込んで、新年一発目の言葉はそれだった。
あけましておめでとう、今年もよろしくな。
と言いかけた私の口は「あけまぁぁぁ!??」とそのまま大きく開かれた。
聞いてない、聞いてないし、こないだ「そっち行くからよろしくねー」の時何も言ってなかったじゃねぇか!
…はっ!!そういや、ビデオ電話が大好きな父があの時いなくて「あれ?お父さんは?」と聞いたら、違う話にされた違和感を思い出す。
「いつから!?なんで!?」と聞くと、年末28日あたりから、脳梗塞でという返事がきた。
その返事の仕方が「28日から能登へ高速で」に聞こえる程度のだったものだから、私は5歳下の弟の車から聞こえるAdoの曲に負けないぐらいの凄みのある声でいう。
「脳・梗・塞 だと…?」
後ろの座席では、再会を喜ぶ甥っ子姪っ子娘がはしゃぎ倒していて「ねぇねぇおばちゃん新幹線乗ったー!?」とか言っている。うんうん乗ったぞ土産もあるぞ、でも待っておばちゃん今、ちょっと君たちとお話しする余裕ないわ、後でお年玉やるから静かにしてなさいな、というありったけの念を込めて、左手で制しつつ「脳梗塞だと?」ともう一度繰り返した。
「あー、あのね、めっちゃ軽い。すげー軽い。右足違和感あるって言って病院行ったら脳梗塞だったんだって。呂律も回ってるし、正月に向こうの家で心配させるのも悪いからって黙ってたんだよ」
「なんだ、そうなのね」
…ってなるかい!!
なんだよなんだよ、のけものにすんなよ、心臓に悪いじゃねぇか、言っとくけどな、お父さんに会うまであたしゃ安心なんかしてやらねーよ!!
そんな意気込みで実家に着くと、母がウキウキと出てきた。
「あああー!孫ちゃん、大きくなったねぇぇぇ!」
11月に帰った時は、娘を連れて行かなかったから、夏ぶりの再会だ。
大きくなった、なったけどそれよりお母さん!
「あ、お父さん?もう元気!あんたが大阪帰るまでに退院出来るといいんだけど。それより、今日はご馳走!天ぷらしてあげるから、ね!!」
11月に会った時、てんで食欲が湧かないと、私にだけ豪華な食材を買っていた母が言った。
昔から揚げ物には定評がある母が、あの中華鍋を前にしなくなってどれほど経っていただろう。
食卓には、母の大量の天ぷらと私の土産の551蓬莱の焼売が並んで、弟一家もやってきて、あっと言う間に賑やかになった。
いないのは父だけだ。
「ねぇ、本当に元気なの?」そう聞いたら、母が「あ、そうだ、じゃあ電話してあげよう!」そう言って携帯を取り出すと、ワンコールもしないうちに父が応答した。
「お!来たか!」
そういう父の声のハリたるや。
本当に元気だな!
よかった。もうびっくりさせないでよ、でもよく足の違和感だけで病院行ったね、グッジョブ!
「正月になったら病院開いてないと思ったからな」
「向こうはどうだ?今年も元気だったか?」
元気元気、今年も元気に喧嘩してた!こっちも負けてられないよ、早く退院しといでよ!
そう言って電話を切った。
母が、ああ見えてものすごく寂しがっているのよーと笑った。
そして、3連休に入る前の日に、父はニッカリ笑って退院した。
「俺も悪運強いだろう?」
そういうの悪運とは言わないのよ、それはまさしく幸運と言うの、と思ったけれど黙っておいた。
「俺がポックリ逝かなくて残念だったか?」と母にも言う。
母は「バーカ言って!」と返しながら父の布団を敷いていた。それから「お父さん、寂しかったでしょう?」と聞くと、今度は父が「バーカ寂しいわけあるかい!」と返した。
何この夫婦、めっちゃ照れあってるやん、やめてくれ、私も照れるやん…
中途半端にヘラヘラしながら私も布団を敷いた。
そうしたら、父が小声で「まぁな、孫らが集まってる間だからな」へっへっへと笑いながら呟いた。
お父さん寂しかったんだね…!!!
なんとなく、父の背中にしがみつきたい衝動に駆られたが出来なかった。
私も猛烈に照れとるやんけ。
最終日の夜、今度は弟一家の家で宴をした。
散々盛り上がった後、父は疲れたからと早めに帰り続いて母も帰った。
私は、その後も弟と、弟の嫁ちゃんと酒盛りした。
娘が「今日はここにお泊まりをする」と張り切っていたのに、ちびっ子たちとお風呂に入りたくないと言ってモジモジし、ちびっ子が「ええー!?なんでー!!」と娘に迫っていた。
同じ年のいとことは喜んで風呂に入っていたけどな。
やっぱり性別の違いや、体つきの違いが気になるようになってきたのかな。と思った。
それでなんとなく子供の性教育の話を持ち出したら、そこからハッスルし、弟と嫁ちゃんと私は、小声でかつ熱くなる。
「変なサイトから間違った情報を入手してしまう前に、正しい性教育をせにゃならん!!」「だが漫画の情報は有益だぞ」「あんたは変な漫画を読みすぎだ!姉ちゃんは知ってるぞ、お前の部屋のエロ本!」「当たり前だ、俺はコソコソ読まない、堂々と読んでたからな」「ちょっと、どんな威張り方なのそれ、お義姉ちゃん、この人昔からこんななの?」「そうさ!全然隠すつもりなく積んであったぞエロ漫画!息子くんもそうなると思う!」「ええ〜」
違う。両親に何かあった時のための話をしようとしてたんだ。
エロ漫画の話じゃねぇ!
そう思った時には、すでに子供たちの眠る時間だった。
娘を置いて、実家に戻った。
両親が「なんの話してたの?楽しかったか?」と微笑んだ。
多分、今後の話とか、お父さんの心配ごととか話したのかなぁと言う顔つきで。
ごめん、エロ本の話してたわ。
とは言えなかった。
父が入院して、気落ちしてる場合じゃないと思っただろう母と。
孫に会うために入院してる場合じゃないと思っただろう父と。
エロ漫画の話してる場合じゃねぇわと思った私と。
まぁまぁ似てる…?親子の年明けでございました。
何はともあれ、義両親一家、そして実家の話が、明るく書ける2023の始まりに感謝。
なんてったって元気が1番。
今年も一年、皆様が元気で笑って過ごせますように!
以下、実家の写真撮るのが好きなのでみてくだされ。
ヘッダーは、父がいつのまにか飾っていた梟さん🦉 なんとなく縁起良さげ。