あれからどこを探しても見つからないマイ綾瀬
自分の美のピークを、目視したことがありますか?ピーク。すなわち頂点。
時間にしておよそ6時間。
私は、みた。自分のピークを。
27歳の時だ。
社内恋愛真っ只中だった。ホヤホヤだった。会社に行くのが、べらぼーに楽しい時期だ。
彼は2日前から東京に出張に行っていた。
2日間顔を見ていない。
その東京から電話がかかってきた。
電話の相手は、彼ではなく、ボスの方だった。
「悪いけど、明日の展示会の受付、ヘルプで来てくれない?」
TOKIOで受付!
地方でデスクワークをしている私は、オシャンティなOLへの憧れが強かった。
仕事が出来てピンチの時はハイヒールで走りだす、たまにドジっ子だけど、気合だけは負けません!そのような偏ったOLイメージを持ったまま27歳になっていた。私もあの仲間入りがしたい。受付、是非やらせてください。
東京へは、高速バスで行くことにした。
高速バスは一人時間を満喫出来るから好きだ。
その高速バスの中で、私は頻繁に髪をとかし、肌を保湿をし、薬用リップを塗り、スーツに変なシワがつかないよう最新の注意を払って座った。居眠りなんてしない。背筋ピン子だ。
東京駅について、化粧直しをしようとトイレに入った。
そこで私は自分に驚愕した。
鏡の前には髪の毛ツヤツヤ、肌も唇もプルプルになっているスーツを着た良い女がいた。
あ、綾瀬はるかじゃねーか!?
(言うだけなので今回は見逃して頂きたい)
驚いた、まさか私の中に綾瀬が眠っていたとは!なんだこのポテンシャルの高さは!!
いかん、眠れる獅子を起こしてしまった。もう茨城には帰れないかもしれない…!
実際、仕事場に行ったら、次々に言われた。「お!誰か分からなかった!」「あれなんか今日雰囲気違うね?」
でしょうね、私今、綾瀬なんで。
「今日は受付よろしくな!」はい、会社の顔として、全力で私の綾瀬を出しつくします。
そして、そこに彼も来た。彼は照れ臭そうに、小声で言った。「一瞬誰か分からなかったよ、良いねスーツ姿も」
コングラッチュレーションズ、今、綾瀬はあなたのもの。日本中が嫉妬しちゃうぜ、ちゃんと捕まえておけよ。
さて。この綾瀬。帰りの高速バスの中で行方不明になった。1日緊張状態で立ち振る舞っていた私は、疲労につき、大口を開けて寝た。どうやらその口から、マイ綾瀬は出て行ったらしいのだ。
その後、どんなに髪にトリートメントしようと、お肌に潤いを保とうと、綾瀬は現れなかった。
なんなら、自分の結婚式でさえ、ピーク時の綾瀬は現れなかった。
ブライダルエステをやったのにもかかわらずだ。
「私の中に綾瀬がいる」と知ってしまったせいで、結婚式の写真にも納得が出来なかった。おい、誰か私の綾瀬を起こしてくれ、目を覚ますんだ綾瀬、いるんだろ綾瀬、居留守使うなよ綾瀬。
どんなに叫んでも綾瀬は帰ってこない。
いつでも探していた。向かいのホームも路地裏の窓も、こんなとこにいるはずもないのに。
奇跡がもしも起こるのなら今すぐ君に見せたいマイ綾瀬。
TVに映る、本物の綾瀬はるかは、常に100%魅力全開で写っている。
しかし、綾瀬はるか本人にも、きっと「今日はイケてないわ」って日もあるんだと思う。しかしどんなに絶不調でも綾瀬。1時間しか寝てなくても綾瀬。コーラを飲みすぎても綾瀬。口開けて寝ても綾瀬。すごいぞ綾瀬。
たった1日、時間にしておよそ6時間。
誰がどんなに否定したとしても、私1人は信じている。あの日、私の中に綾瀬はいた。
トキメキがそうさせたのかもしれない。今後私が綾瀬になる可能性は限りなくゼロに近い。いや1%綾瀬と言っただけで世間様からお叱りを受けるだろう。
それでも私は忘れない。
そして、私は思う。
あの綾瀬が宿った日を。
自分の美のピークを目視したことがありますか。
ピーク、すなわち頂点。
あなたの綾瀬、あるいは石原、あるいは新垣。
もしかしたら、数時間、突如現れるかもしれない。
その幸運、見逃すことなかれ。
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