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トコラ版曾根崎心中#2 徳(徳兵衛)結婚ばなし
近松門左衛門作 =曽根崎心中=
を現代語訳・・・というか、近未来SF化して上演を試みています。
場面ごとの上演テキストを順次公開しようと思います。
現代語訳に相当するものと、
原作に登場しない人物のものとあります。
引用した原作の場面を、下に原文引用として記載しています。
「トコラ版曾根崎心中」については、
作品紹介記事をご覧ください。
徳(徳兵衛)結婚ばなし
いや・・・。隠してたわけじゃないけどさ、わざわざ言って心配かけてもいけないと思ってさ・・・。
だけど、もうだいたいケリがついたから、聞いてくれるかな。
うちの社長は実の叔父さんってことは知ってるよね。だからっていうわけじゃないけど、可愛がってくれていてサ、俺も一生けんめい仕事にはげんでいたわけ。今じゃ大きな集金も任されていて1円だって間違えたことはない。すごいだろ。
この働きっぷりを認めてくれたみたいで・・・・・・社長の屋さんの姪っ子のお嬢さんと結婚して、会社を継がないか、と、去年からな~んとなく持ちかけられていたんだ。三千万の持参金つけて。
・・・・。
そんなことできるわけないだろ。信じてくれるよね。社長がさ、田舎の親父の奥さん・・・いや、母をこっそり呼び寄せて、金を渡して決めちまったんだよ。いつのまにか!
だよね~~。ずっと社長のそばにいたのにさ、ぜんっぜん気づかなかったんだから。
先月の月末のクソ忙しい時に、社長がいきなり
「来月、式場取ったからな」って言うんだよ。何かと思ったら、ホラ、センターのあのでっかいあそこで結婚式するって言うんだよ。あり得ないだろ?
俺もカッとして、
「何言ってるんですか!社長。僕、ひとこともいいなんて言ってませんよね。僕を抜きにして、母にうまいこと言って、あんまりじゃないですか。奥さんもひどいですよ。今まで、お嬢さまお嬢さま、って頭下げてた人を持参金つきで嫁にもらって、一生女房の機嫌うかがってろってんですか?冗談じゃありませんよ。死んだ親父が生き返って命令されたって、イヤなものはイヤです!!」
って、言い返したら、社長も怒っちゃって、
「ふ~~~~~ん、そうか。おい、俺が知らんとでも思ってるのか。テンマのはつって言ったっけ。その女といい仲で、それで姪を嫌がるんだな。わかった。もういい。姪はお前にはやらん。やらんから、金を返せ。4月7日までにな。あ、あとお前にまかせている集金もその日までに終わらせろ。そのあとは、もう来なくていい。社宅も引き払え。」
俺だってさ、男だよ。わかりました、と、その足で田舎に帰ったさ。
ところが母って女が、これがまた、一度つかんだ金は、この世があの世になっても絶対に放す女じゃないんだ。しかたないから、町内会の会長さんやら、近所の長老やらに頼み込んで、同席してもらい、3日がかりで母を説き伏せ、金は取り返した。
まあ・・・、ひと安心といえばひと安心・・・。でも、金を社長に返したら、つぎの仕事を探さなくちゃ。食品会社の営業は、この街ではできなくなる。
もう、逢えなくなっちゃうんだよ。たとえばサ、骨を砕かれて・・・・。
=曽根崎心中 徳兵衛長話 生玉社内の場=
(徳兵衛)
隠すではなけれども、言ふても埒の明かぬこと。
さりながら、大方まづ済みよったが、一部始終を聞いてたも。
俺が旦那は主ながら現在の叔父甥なれば、ねんごろにも預かる。また身共も奉公にこれほどの油断せず、商い物も、文字ひらなか違へたことのあらばこそ。
この正直を見て取って、内儀の姪に二貫目つけて女夫にし、商ひさせふといふ談合。去年からのことなれど、そなたといふ人持ちて、なんの心が移らふぞ。
取りあへもせぬ其の内に、在所の母は継母なるが、われに隠して親方と談合極め、二貫目の銀を握って帰られしを、此のうっそりが夢にも知らず。跡の月からもやくり出し、押して祝言させふと有る。
そこで俺もむっとして、やあら聞こえぬ旦那殿。わたくし合点いたさぬを老母をたらし、たたきつけ、あんまりななされよう。お内儀様も聞こえませぬ。今まで様に様を付け あがまえた娘御に、銀を付けて申受け、一生女房の機嫌取り、この徳兵衛が立つものか。いやと言ふからは死んだ親父が生き返り申すとあってもいやでござると、言葉を過す返答に、親方も立腹せられ、おれがそれも知っている。蜆川の天満屋の初めとやらと腐り合ひ、嬶が姪を嫌ふよな。よい此の上はもう娘はやらぬ。やらぬからは銀を立て、四月七日までにきっと立て商ひの勘定せよ。まくり出して大坂の地は踏ませぬと怒らるる。
それがしも男の我。オオ、ソレ畏まったと在所へ走る。また此の母といふ人が此の世があの世へかへっても、握った銀は放さばこそ。京の五条の醤油問屋、常々金の取り遣りすれば、これを頼みに上って見ても折りしも悪う銀もなし。引返して在所へ行き、一在所の詫言にて、母より銀を受け取ったり。追っ付け返し勘定しまい、さらりと埒が明くは明く。されども大坂には置かれまい。時にはどうして逢はれふぞ。たとへば骨を砕かれて・・・・・
近松門左衛門 著, 高野辰之 校訂
春陽堂
(トコラ版上演記録)