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②お一人様旅の掟

 なんだか不気味な雰囲気のある空港だ。
 初めてのイスタンブール空港に想像とのギャップを感じながら、空港内の移動バスに揺られていた。午前3時、うっかり飲み込まれてしまいそうな夜の空気に、なぜか私はわくわくしていた。今思うと、バックパッカーズハイである。そんな私の気持ちを感じとったのか、陽気そうな女性に話しかけられた。
 日本人ですか?
 頷き、私も聞き返す。同じ飛行機で日本から来たのだから、十中八九そうだろうと思ってはいたが、やはり日本人。彼女もここでは乗継で待ち時間があるとのこと。一緒にカフェで時間をつぶすことになった。バックパッカーズハイとはいえ、この空港で、同じ時間を過ごす相手が見つかったのはとても心強かった。というのもこの空港、現在は使われていない旧イスタンブール空港で、計らずもこの日が最後の営業日ということだった。ほとんどの売店は既に撤退しており、照明の半分は点いていないのではと思う程薄暗く、エスカレーターも稼働していないので自力で登る。翌日から営業される新イスタンブール空港は、世界最大の国際空港にまで拡大予定だという。みなそちらに気を取られているような、「閉港」という文字が常に頭の片隅に居座り続ける、そんな空港だった。私たちが近くのカフェを探し始めたころ、また日本人風の女性を発見。当たり。やはり皆この空港の雰囲気になじめないようで、3人でカフェに行くことが早々と決まる。どうやら飲食店は2階にあるらしい。エスカレーターを探す。しかしこの空港、全体がぼやーっと薄暗いことに加えてそもそも照明がない場所が多すぎる。そして、彼らにその気はないのだろうが、従業員風のお兄さんのけだるげでラフな佇まいにたじろぐ。ここを通るのが怖い。そう私が感じた場所で、
「うん、とりあえず明るい方に行こっか!」
 陽気なお姉さんが言った。そうか、そうか、そうか。この時まで私は「一人旅」ということをしっかりと理解できていなかった。行きたくないところに行く必要はないのである。それが危険そうであればなおさら。そして、自分の身は自分で守る。これは大前提なのである。聞くとこのお姉さんも旅好きで、それが高じて今回はイタリア・マルタ島の日本料理屋で働くために来たのだという。もう一人の女性もマルタ島へ、こちらは語学留学でとのこと。私より一回り程度年上のお姉さんだったが、「明るい方へ」この驚くほど単純で重要な掟を守ることを誓い合って、正体不明のトロピカルジュースを味わった。


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