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④バイヨンヌ

 モンパルナス駅からバイヨンヌ行きの国鉄が出ることは予習済みなので、そこからは比較的スムーズだった。窓口で切符を購入。すぐの便は満席だったのでその次の便まで2時間程度、時間をつぶす。
 そしてここで重要ミッション。この2時間で今夜の宿を確保しなければいけない。予定ではバイヨンヌに着く時間は19時過ぎ。その町が田舎ということ、初めての夜ということで、できるだけ駅から近く、お値段抑えめな宿を探す。Booking.comを開くこと20分。良さそうなホステルはあるのだが踏ん切りがつかない。そんな矢先、駅のフリーWi-Fiが切れた。私の頭はフリーズした。私がスマホをオンラインで使う手段はフリーWi-Fiのみである。

どうしよう。どうしよう。

困惑する中で必死に冷静を装い、掲示場を確認。連続使用には20分の時間制限があり、時間をあけると再び接続出来ることを解読。気を取り直してホテルを検索。モタモタしているとまた時間制限がきてしまうので、駅から徒歩5分、Wi-Fi完備、約6,000円のホステルを予約。ホステルのスタッフとメッセージを数回やり取りして予約完了。
安堵して、そしてここまでの疲れを一気に感じた。
時間制限に少し余裕があったので、何となく母を安心させるつもりで電話をかけた。ワンコールで電話をとる母。
もしもし
それだけで目に涙が溢れてしまった。不覚にも、それだけで、一瞬の内に。
なんとかなりそうだよ、大丈夫だよ
そう言うつもりだったのに、私は、ここまでとても苦労したこと、迷子になったこと、英語を話してくれるフランス人はほとんどいないので会話ができないこと、Wi-Fiの時間制限を知らず絶望したこと、とにかく大変だったけれどここまで頑張ったことを、子供みたいに泣きながら話した。相槌をうつ母の声は震えていたけれど、泣いていなかった。言いたいことを吐き出した私は、見知らぬ地での母の声に落ち着きを取り戻した。そこでこの電話は母を安心させるためだったことを思い出し、イスタンブール空港で旅仲間が出来たこと、道行く人に声をかけることはできたこと、今夜の宿を確保したことなどを自慢して、大丈夫だよと笑った。カッコつかない鼻声で。
よかった
と母は言い、
また宿に着いたら連絡するね、じゃあ時間制限あるから切るね
フランス風吹かせて電話を終える。もちろんながらこの電話中には2回目の時間制限がきており、それを跨いでの電話だった。そのため母に私の隠しきれない不安はバレバレであったと思うが、それはまあ、許してもらうことにしよう。
 国鉄は車体とホームが長く一生たどり着かないのではと思う程だったが、何とか乗り込むことに成功。向かい合わせの4人席で、右横のお兄さんが食べていたプリングルスがとても美味しそうだったので、その後私も購入した。
 バイヨンヌ駅には予定通りの時間に到着した。予約したホステルは本当に駅から近く、スタッフの方はとてもチャーミングな女性。翻訳アプリを使って施設の説明をしてくれた。案内された部屋にはレトロで可愛い木枠の大きな窓があった。嬉しくなって開けてみると、目の前は路地裏のような小さな通りだった。向かいの壁一面には繊細な金魚のウォールアート、窓には小さなフラワーバケットが飾られていて、思わず顔がほころんだ。ほんの数分で辺りは真っ暗になろうとしていたので、残念だがすぐに窓は閉じた。



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