番犬ならぬ番蛙
「家の光」は、農協の渉外担当者が毎月お届けしている農協の家庭向け月刊雑誌。年間購読で約9,000円。
この雑誌を、1か月の間に購読契約者のお客さんにお届けしているけれど、月末になって、まだお届けできていない何冊かが。。。
今月の月末は土日が重なっているお陰で、集金も多くなってしまった。
こうなったら、時間を割いてでも、段取りをしっかり組まないといけない。
支店を出掛ける前に、机の上で返すものや届けるものを訪問順に並べ変える。
そのお届けの訪問途中にある集金の家は、フセンに名前を書いて挟む。
そして、その順番通りに、メモ用紙にイニシャルとか記号で自分だけに分かるようにすべて書く。
そのメモは、車のサイドポケットに入れて、乗り降りの都度、確認する。
しっかりと、そこまで段取りをした。
でも、途中で予定外のお客さんから寄ってほしいと電話が入ったり、時間の約束の家に間に合わなそうになり、道順が大幅にロスをする回り方になってしまう状況になったり。
家の光の最後のお届けになった丹川さちさんのお宅には、日も暮れた夜8時近くになってしまった。
丹川さんの家は米農家。家の前には井戸水で育てている田んぼもある。
家の前とか、畑だったところを田んぼにしたところって、「陸田(りくでん)」と呼ぶらしい。
丹川さんの家は明かりが点いていたけど、玄関はカーテンが閉まっていた。
家の光のお届けだけで、玄関を開けさせては申し訳ない。
静かに敷地に入って、ポストに入れていこう。
そう思って、いつもは家の前まで営業車を乗り入れているのを、敷地に入る直前の市道の端に車を留めて、50mほど陸田沿いの錠口を歩っていった。
陸田には苗が30cmくらいの背丈に育っていて、一面に水が張っていた。
静かに歩いていく・・・
敷地に入って半分ほど歩いた所で、カエルが1匹鳴いた。
いや、2ひ、
え?
ええ!?
呼応していく。
何匹ものカエルがどんどん鳴いていく。
僕は歩く速度を速めながら、玄関前のポストに近づく。
スー、ガタンッ。
きびすを返して、速足で歩きながら営業車に戻った。
後日、丹川さんのご主人から
「このあいだよぉ、夜の8時っくらいにうちのポストに家に光入れてったんべ?」
「あ、やっぱり、気付かれました?夜でしたので、チャイム鳴らしたら申し訳ないと思いまして」
「うちはこの時期は前の田んぼにカエルがいっぺーいるからよぉ、番犬みたいに人が来たら鳴くから、分かんだよ」
「はい。すっごい、一斉に鳴くんですね」
本当は、雨が降ると鳴くらしい。
でも、人の足音を、雨音と間違えて1匹が鳴くと、つられて周りがどんどん鳴いていくそうだ。
家の前の陸田のあるお宅には、ポストに投函するだけでも、夜に行くのは控えようと思った。。