一人歩きする子には、急に声をかけない
お母さんやおばあちゃんにくっついて、小さい子が玄関に出てきてくれる。
「こんにちはーのうきょーの、江藤です」
引き戸の玄関をがらがらと少し開けながら、家の奥に向かって声を掛ける。
「はーい!」
長谷川もとさんは60代半ばのお婆さん。いや、60代半ばじゃまだまだ若いんだけど、横にお孫さんがいるのでつい、お婆さんと。内心で反省。
一緒に暮らしている訳じゃないんだけど、近くに住む娘さんの家から、毎日預かって日中の子守(というか保育)をしている。
今日もおばあちゃんに並んで、行儀よく座って、集金の作業を見ている。
3、4歳くらいの、肩近くまで伸びた髪、赤白の横縞のTシャツ、灰色のズボン、口元は半開き。
でも、目は、真剣にこちらを見ている。
こちらはそれを無視する。目を向けない、目を合わせない。声もかけない。
大多数の子ども達は、初対面の人、不慣れな人には人見知りをする。
子どもがいることに気付き、とっさに目を向けたり、声を掛けたりしてしまうと、アウト。
こっちが反応を示した瞬間、目線を外して慣れている身内に話しかけたり、大人の服に顔をうずめたり、後ろに隠れたり、家の奥に引っ込んでしまったりする。
子ども達は人見知り。だけど、それを上回る子ども最大の特徴を活かすと、コミュニケーションを取れるパターンがすっごく多くなる。
子ども最大の特徴・・・・それは「好奇心」。
こちらが反応を示さなければ示さないほど、自ら近づいてきたり、独り言のように疑問を口にしたり、話しかけてきたり、置いてあるカバンやポケットティッシュに触れてきたりする。
長谷川さんのお孫さんはずっとこっちに目線を送っていたけど、途中でおばあちゃんに
「ねぇねぇ、何してるのー?」と話しかけた。
「貯金よ。農協さんの貯金」
「ちょきん?」
「いっぱい増やしてもらうの」
いやいやいやいや(笑)
笑顔で聞き流す。
証書へ回転判スタンプを押し、受取書の作成、日報に金額の記入、共済証書入れのジップロックに伝票と通帳とお金を入れて、カバンにしまい、黄色い受取書ホルダーを出し、ファスナーを締める。
ホルダーに受取書を入れて、その上にポケットティッシュを乗せ、お客さんに向きに変えて差し出す。
となりのお孫さんに。
「はい、どーも」
条件反射で手を出す子、または大人の顔色をうかがって、同意を確認してから受け取る子と、大抵どちらか。
スっと受け取ってくれた。
長谷川さんに顔を向け、
「また、お返しの時にその、黄色いのを引き換えでお願いします」
と伝える。そして
「お孫さん、ふうせん差し上げても大丈夫ですか?」
と許可を取り、カバンのサイドポケットにいれてある風船の袋を出す。
「どの色が良い?取れる?」
いるかいらないかを聞くのはやぶ蛇だ。袋を開け、袋の口を向ける。
「だいじょうぶ?取れる?」
と、ややチャレンジ的な言い方をする。
すると、挑戦的になって手を出してくれる。
持ち歩いているクリスタルフーセンは、セブンイレブンで買った物で、小学生でも膨らませるのは大変なものだから、
「あとで大人の人に膨らませてもらってね」
と言う。
それとこの時、子どもは風船への好奇心で夢中な場合が多く、御礼の言葉まで思考が回らない。
「あれっ?もらったら何ていうんだっけ?」
と助け船を出す。
ただ、今回は
「ありがとう」
とすぐ言ってくれた。けど、長谷川さんは聞こえなかったらしく、
「ほらっちゃんとお礼言って」
と言ってしまったので、
「あ、いま、ちゃんと言ってくれました。偉いねーちゃんとありがとう言えたねー」
と褒めてあげた。うれしそうだ。
お子さんの嬉しそうな顔を見れれば、ご家族の喜びもひとしおになる。