修理費給付特約って?どこも修理してないけど
取扱い商品等のパンフレットやチラシがたくさんある。
共済、貯金、投信、国債、ローン、JAカード(クレジットカードのこと)、年金の指定替え、年金の裁定請求、営農資材品、生活用品、旅行、共栄火災保険、出資組合員加入、女性部、などなど。
どれも細かい字がいっぱいだ。
たとえ、高齢の方向けの資料でも、字が小さいし、言い回しが堅く、理解しにくい。
組織として、時代の流行の「コンプライアンス」という「法律をしっかりきっちりきっかり守る」との強迫観念に押されすぎて、利用者側の利便性は後回しになる。それはどの商品でも同じらしい。
共済、投信、国債、ローンはとりわけ書類も多い。
投信、国債、ローンは世代が若くなるから、まだ何とかなる。
共済はそうはいかない。
農協が取り扱う保険は、JA共済といい、保険とは言わない。
JA共済のたくさんの商品ラインナップの中で、住宅総合保険に近い保障範囲の保障で、建物更生共済というのがある。
建物更生共済、通称、建更(たてこう)は、対象の火事、落雷、風水雪ひょう災、給排水設備が壊れた事による水漏れによる水濡れ被害、暴動による被害、車や投石による建物の内外からの衝突の破損、などなど、補償範囲が広い。
保障年数も、5年、10年、20年、30年と4タイプある。
掛け捨てじゃなく、満期があり、火災保障額の1:1~30:1の満期金額に自由に設定ができる。
と、このあたりが保障内容の大きな説明ポイント。
でも、「修理費給付特約」っていう紛らわしい特約がある。
いま、集金に伺ったら、橋川貞夫さんの奥さんが、いつもの集金の証書と掛け金の他にハガキを1枚持って出てきた。
「ねぇ、これってわかる?」
ピラッと開かれた薄みどり色のハガキ。表にはJA共済と書いてある。
「ちょっと拝見させていただいていいですか」
「修理費って書いてあるけど、うち、どこも修理してないんだけど」
修理費と聞いてすぐに察した。笑顔で答える。
「あー!すみません、紛らわしいんですよね、この名前が。修理費給付特約ってあるんですけど、早く言えば『満期の先取り』なんですよね」
カバンから便せんを挟んだクリップボードを出し、手書きで簡単に説明する。
「農協の建更って、掛け捨てじゃなくて満期があるじゃないですか」
「そうだっけ?」
「はい。でも、満期が30年とか先なので、その一部を3年か、もしくは5年毎に一部を先取りできるっていう特約がついてるんです。その特約の名前が、『修理費給付特約』っていう名前なんです。紛らわしいですよね」
「そのお金はもらえるの?」
「はい。お手続きをしていただいて、先に受け取ることもできますし、この先、たとえば洗濯機や冷蔵庫とかの修理や買い替えが発生した時に使うために据え置いて、いつでも下ろせるようにとっておく方もいらっしゃいます」
「もらわなかったらどうなるの?」
「最後の満期の時に、据え置いた分、ちょびっとの利息を付けてお受け取りいただけます。農協がもらったりとかはしませんので、大丈夫です」
「手続きは面倒なんでしょ?」
「以前は証書が必要でしたが、今は契約者様名義の免許証か何かと、口座の番号と、シャチハタ以外の認め印があれば、大丈夫です。あと、ご同意いただけましたら、マイナンバーの方もご記入をお願いするくらいです」
「でもいいわ。今は使う予定はないし、最後はもらえるんでしょ?」
「承知いたしました。」
そのあと、集金を預かることに。
集金を数えていたら、奥さんが
「この、書いてもらった紙、もらってもいい?お父さんにも話したいから」
「あ、わかりました。ちょっとだけ最後に書き足してもいいですか?」
余白に書き足す「あくまで概要についてのご案内です。詳しくは外回り、または窓口までお願いいたします」
本店のコンプライアンスの指導としては、一職員の自作の説明の紙は、お客様のお手元に置いてきてはいけない。としている。
JA共済の全国本部、「全共連(ぜんきょうれん)」の研修会でゲストで来ていた外部講師の人は、
「お客様から、『どうしても、紙やパンフレットに書いておいてほしい』と、お願いされた、という建て前で置いてきた場合、コンプライアンス違反かどうか、判断が分かれるそうです」
と話していた。
ただ、分かれると言っただけで、その手段を勧めてはいない。
もし、万が一、問題になったとしら、職員一人の自己責任なんだ。
個人的には、説明文が専門的過ぎてお客さんの理解が伴わなければ、説明義務に違反していて、それこそが最も重大なコンプライアンス違反じゃないかと勝手に屁理屈を考えてしまう。
最終的にはお客さんとの信頼関係に頼らざるを得ない。
でも、
理解しにくい既定の書面しか渡さない場合と、
(要点においては)理解しやすく作成された自作の紙をお渡しした場合
とでは、信頼を得られるのは後者だと、自信を持って言える。
自分が心からご理解をして欲しいと思ったお客さんの家には、青字が書かれたB5の紙や、エクセルで作った表の形の説明用紙が、次々に置かれていっている。