第11回 これだけ!固有ベクトルと固有値(線形代数)
前回は線形空間と線形変換の性質について解説しました。
今回は固有ベクトルと固有値とは何か、そして固有方程式の解き方について解説していきます。
1.固有ベクトルと固有値
実は前回固有ベクトルについてちらっと話しましたが、今度は違う例で再度説明します。次のような線形変換を考えましょう。
$$
A=
\begin{pmatrix}
3&5\\
1&-1
\end{pmatrix}\quad
\overrightarrow{r}=
\begin{pmatrix}
5\\1
\end{pmatrix}
$$
線形変換は次のように計算されます。
$$
A\overrightarrow{r}=
\begin{pmatrix}
3&5\\
1&-1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
5\\1
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
20\\4
\end{pmatrix}
=4
\begin{pmatrix}
5\\1
\end{pmatrix}
$$
となり、新しく生まれたベクトルは方向がもとのベクトルと変わらず、長さがもとのベクトルのスカラー倍されていることが分かります。このように、このように線形変換してもベクトルの方向が不変なベクトルを$${A}$$の固有ベクトルといいます。そして固有ベクトルと変換後のベクトルの比を固有値といいます。これが固有ベクトルと固有値の定義です。皆さんに覚えてほしいのは以下の二つです。
(2024/03/11)上記を訂正させてください。「$${A}$$の次数と固有値の数と固有ベクトルの数は一致する。3次線形空間であれば$${A}$$は3次行列であり、その場合固有ベクトルも固有値も3つ存在する。」これは誤りです。固有ベクトルが$${A}$$の次数より少ない場合があります。どんな場合か考えてみましょう。
2.固有方程式とは
先ほど以下のような式が出てきました。
$$
AX=\lambda X
$$
固有ベクトルと固有値を求めるにはこの式を解く必要があるのですが、このままの形では解けませんので変形して解ける形にしましょう。まずは上の式と↓の式は同値です。
$$
AX=\lambda IX
$$
右辺に単位行列を挟んだだけですね。でもこの形にすると次のように変形できます。
$$
(A-\lambda I)X=0
$$
いわゆる左辺ー右辺=0という形ですね。さてこの式は同時方程式の形なわけですが、このような方程式について$${Xが0}$$以外の解を持つためには以下の条件が必要になります。
$$
|A-\lambda I|=0
$$
つまり上式を満たす$${\lambda}$$の時に固有ベクトルがそれぞれ存在することになりますね。上の行列式で記述される式を固有方程式と呼びます。
3.例題
とにもかくにも例題を解きながら覚えていきましょうか。次の行列$${A}$$の固有値と固有ベクトルを求めましょう。
$$
A=
\begin{pmatrix}
2&-1\\
-1&2
\end{pmatrix}
$$
固有方程式から、
$$
|A-\lambda I|=
\begin{vmatrix}
2-\lambda&-1\\
-1&2-\lambda
\end{vmatrix}
=(\lambda-2)(\lambda-2)-1
=(\lambda-1)(\lambda-3)
=0
$$
つまり固有方程式を満たす$${\lambda}$$は$${\lambda_{1}=1,\quad\lambda_{2}=3}$$と求まります。ちゃんと2つありますね。
続いてそれぞれの固有値$${\lambda}$$に対応する固有ベクトル$${X}$$を求めます。
①$${\lambda_{1}=1}$$の時
$${(A-\lambda I)X=0}$$に値を代入しましょう。
$$
(A-\lambda I)X_{1}=
\begin{pmatrix}
1&-1\\
-1&1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_{11}\\
x_{12}
\end{pmatrix}
=0
$$
この連立方程式から、
$$
x_{11}=x_{12}
$$
となり、$${x_{11}=c_{1}}$$($${c_{1}}$$は任意のスカラー)を代入すると$${x_{12}=c_{1}}$$となることから、$${\lambda_{1}=1}$$の場合の固有ベクトルは、
$$
X_{1}=c_{1}
\begin{pmatrix}
1\\
1
\end{pmatrix}
$$
と求まります。続いてもう一つの固有値についても固有ベクトルを求めてみましょう。
①$${\lambda_{2}=3}$$の時
$${(A-\lambda I)X=0}$$に値を代入しましょう。
$$
(A-\lambda I)X_{2}=
\begin{pmatrix}
-1&-1\\
-1&-1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_{21}\\
x_{22}
\end{pmatrix}
=0
$$
この連立方程式から、
$$
x_{21}=-x_{22}
$$
となり、$${x_{21}=c_{2}}$$($${c_{2}}$$は任意のスカラー)を代入すると$${x_{22}=-c_{1}}$$となることから、$${\lambda_{2}=3}$$の場合の固有ベクトルは、
$$
X_{2}=c_{2}
\begin{pmatrix}
1\\
-1
\end{pmatrix}
$$
と固有ベクトルが求まりました。
つまり固有値と固有ベクトルを求めなさいと言われたら、
この順番で計算を進めましょう。
まとめ
今回は固有値と固有ベクトルの求め方を解説しました。わかりやすく解説したつもりですが、それでも「固有値だの固有ベクトルだの求め方が分かったところで正直よくわからん」という気持ちは残ることでしょう。次回はそれを払しょくする回にしたいと思います。次はこちら↓
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次回は固有ベクトルと固有値の考え方についてです。
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