詩 六編
「やさしい言葉」
みんな
難しい言葉を
たくさん使いたがる
使えば なんとなく
偉くなれた気持ちがするから
反対に
やさしい言葉は
あまり使いたがらない
やさしい言葉で
相手に意味を伝えられない
弱い自分を隠したいから
「せっけん」
むかしは お風呂場の主人公だった
せっけん
小さくなるまで さわって
遊んだ経験 あるでしょう
最後のやわらかい一片を使いきれない
せっけんの宿命は
子ども心に
切なかった
大人になるにつれて
その姿をめっきり見なくなった
きっと
何もかも ワンプッシュで済ませる生活に
狎れてしまったから
あのとき感じていた
やわらかい切なさも
水と一緒に
流れてしまった
「本」
漢字の「木」に
横のいっぽん線で「本」
ただ「木」がならんでいる
「林」や「森」とはちがって
明確な意志をもって
「木」で出来た紙に
いっぽんの線をひく
だから そこに描かれた言葉は
その人の「本」となる
その人の「心」を支える「体」となる
「朝」
朝は 静かです
新聞の配達が来るほかは
何も聞こえません
そこに洗濯機の音を混ぜます
台所の流しの音を足します
仏壇のおりんを鳴らします
人が起きて あいさつと
足音とが重なります
まいにちまいにち
リピートを欠かさない
インストの始まりです
「物書き」
他に やりようもないので
自分の物語を
適宜 締め殺しながら
誰かの物語を
逐一 なぞっている
そして
あなたの物語を
執拗に 追いかけている
そんな裏の現実
知ったこっちゃないでしょう
少なくとも わたしは
そんな物書きの
ひとりです
「傀儡師」
よく出来たジオラマのなかで
躍動する身体
それらを動かす傀儡師が
抜け殻なんて 笑えます
傀儡師こそ
自分の劇を楽しまなければ
ならないのです
黒子そのイチ、なんて言わずに
しっかり生きましょう
ばかでも いいのです
満たされて いいのです
下手くそでも いいのです
そして 愛したい何かを
しっかり愛して いいのです