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Photo by
soranochihiro
【詩】御布施/珈琲雲/寝言
「御布施」
僕は 途方もないほど長く
御布施をもらい受けてきた
だから反対に
御布施を与える立場になると
怖くてしかたがないのだ
米も 金銭も
労役も 時間も
こんなにも多くの人の血を吸い上げたものを
消費してきたのかと思って
震えが止まらなくなるのだ
さいわいにも わざわいにも
御布施を与える立場になった僕は
そのことに痛み続けている
「珈琲雲」
今日もまた
街の向こうに珈琲雲がみえた
子どもの頃からずっと憧れている
芯のある雲のかたち
くだらない空を切り分けるような
するどい雲のかたち
八歳の僕も
十六歳の僕も
廿一歳の僕も
年齢を数えるのを諦めた僕も
いまだにまっすぐで大人びた
珈琲雲に憧れている
「寝言」
冬の夜の
他愛ない寝言だと思って聞いてほしい
僕は良い奴だ
だれにも嘘をつかないし
だれのことも嫌わない
いつだって正直に生きている
本当の本当に良い奴なんだ
このことは今のうちに
みんなが寝静まった今夜のうちに
言わせてほしい
きっとこの夢が終わる朝には
無辜の人を何人もころした
救いようのない男が
起き上がっているだろうから