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第5話 夢! Part A
「あの~。『生徒会長』って人は来ないんですか?」
体感的には1週間前。しかし実時間では1日前の放課後。
聖徒会長の不在を疑問に感じた俺は、率直に「聖徒会」メンバーに投げかけた。
「こちらへ来てください」
まっさきに口を開いたのは平賀先生。
俺は戸惑ったが、斎は不安げに指先を宙に漂わせつつ、俺の制服の裾を引っ張った。
促されるまま、「聖徒会室」の暗幕へと近づく。先生が暗幕のすきまに手を触れると、カーテンレールが作動して隠し扉がその姿を現した。
驚いている暇もなく、先生が鍵を取り出して扉を開ける。そこは六畳ほどの狭い部屋で、人感センサーが反応するや、オレンジのライトがぼんやりと点灯した。
「『聖徒会長』は、ここにいます」
丁寧に黒シルクの張ったベッドに横たわるのは、御伽噺に登場しそうなくらい端正な顔立ちの小柄な少女だった。茶髪の、きれいにまとまったツインテールがベッドの縁から力無く垂れ下がっている。かすかに胸が上下しているから息があると分かるのだが、まちがっても「正常」な状態にないことは明らかだった。心臓のあたりから医療チューブが放射状に何本も伸びており、その先は点滴のバッグや生命維持装置につながっている。
「三年の高宮先輩。ゴールデンウィーク以降、こうして眠り続けているの」
そう斎が神妙に教えてくれた。
「生きて……いるんだよな?」
「ええ。動けないだけで、たしかに生きているわ。医療措置を施して人工的に命をつないでいるんだけども」
「何かの病気なのか? なんで病院にいかない?」
平賀先生は、まっすぐに俺の眼を見て告げた。
「高宮は、病気ではない非常に稀な状態にあります。残念ですが、医者の出る幕ではありません。もしもこれが公になれば、こぞって世界の科学者が押し寄せるレベルです。そうなれば、彼女と彼女の将来に不利益が生じかねない。ゆえに限られた人間にしか、このことは知らせていません」
「どうして、高宮先輩のご家族だって心配でしょう!」
「彼女は両親がなく一人暮らしです。遠い親戚がいるにはいますが、まあ、あまり人の家庭の事情には踏み込まないでくれませんか」
家庭の事情か。俺の中で大嫌いな日本語のひとつだ。どうにもムシャクシャする。
「私たちは、この謎の現象について随分と調べました。その結果、たしかな事実がひとつだけ浮上しました。それは、彼女が永い ”夢” を観ているということ」
平賀先生は、手のひらサイズの装置を出してみせた。「SS」とロゴの入ったリストバンドである。
「私が開発した、ひとの夢に介入するための道具です。これを装着したものは、1時間だけ自分の意識を眠っている他者の意識と同期させることができます。わが校の『Saint Students』認定者のみ与えられる、非常にデリケートで、大きなリスクをともなう行為です」
俺は、他の「聖徒会」メンバーの腕をみてハッとした。全員同じリストバンドをもっている。
「会長を救うには、彼女が観ている ”夢” に介入するしか方法がないんだ」
徹が強い口調で言う。そして、楓さんがタイミングを見計らったように立ち上がった。
「前回、私たちが会長の ”夢” に介入したとき、一上聖という名前が夢のなかに現れた。理由はわからない。でも、それが玉串さんや陣内さんの幼馴染であるあなたであることは確かだった。……あなたを誘った理由、わかってくれた?」
楓さんは、リストバンドを俺に差し出した。
「あなたの力が……要るから」
正直、この会長とは初対面だし、事情もまだ飲み込めないけれど、俺はリストバンドを楓さんから受け取った。なぜか俺の心の深い部分が疼きはじめていた。難しい理屈なんて、無いのかもしれなかった。
「ああ。やらせてもらうよ」
そうして俺たち5人は、昏々と眠りつづける「聖徒会長」の夢のなかへ旅立っていった。
(たぶんつづく!)