5年と数十兆円かけても地方創生が上手くいかない理由【地域活性化センター理事長 講演レポ】
地方創生について、上手くいかない理由を整然と解説する講演を聞いた。地域活性化センター理事長 椎川 忍氏だ。
先日、記事として投稿した増田寛也氏に続き、片山さつき氏や地方創生統括官補の多田健一郎氏の講演も聞いたのだが、彼女・彼らのまとめを書く必要が無くなってしまった位の内容だ。
1.椎川 忍氏プロフィール
(写真は地域活性化センターホームページより)
1953年生まれ、秋田県出身。四日市高校から東京大学法学部卒業。76年自治省に入省。埼玉県、香川県地域計画課長、宮崎県財政課長、島根県総務部長などの地方勤務経験あり。自治省国際室長・地方債課長、総務省財政課長、総務省・内閣府の大臣官房審議官、総務省自治大学校長(第43代)・地域力創造審議官(初代)・自治財政局長などを歴任。2012年9月退官、2013年6月から地域活性化センター常務理事、2014年6月から現職。
椎川氏は地域おこし協力隊を創設したことで知られるが、第一期 地方創生事業について、以下のように分析する。(以下、椎川氏本人の講演より)
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2.成功した面、失敗した面
第一期の地方創生事業の実績はまずもって、人口問題を提起した事だ。やや遅かったが、この事業によりやっと人口問題が日本全体に認識されるようになった。このまま人が減り続けるといずれ日本民族が滅亡するという共通の危機意識だ。
また、恒久法であるまち・ひと・しごと創生法(平成26年法律第136号)を制定したことも間違いなく実績だ。
補正ではなく、当初予算で交付金を作ったのも重要だ。交付金の仕組みを作ったが使う方の問題もあることが分かった。
結局、この5年で何十兆円というお金を使っても地域活性化はうまく行かなかった。
最たるものが、人材を育成しなかったことだ。結局、時間がないから地方は国が言う通りにお金を使いましょうという発想をすることになった。
地域に人材を育成しなかった。
私は育成するために地方創生カレッジを作ったが、受講者が芳しくない。画期的な制度だから利用してほしい。
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3.うまくいっていない点(課題認識)
ようするに、中央集権的過ぎる手法が根源的問題だ。国のいう通りにしないと、地方は交付金がもらえない。
地方の補助金申請を採択するにも国の担当者のバイアスがかかる。
例えば、地方公務員が補助金の申請をした際に、中央官僚に厳しく質問を受ける。官僚は圧倒的な情報量を持っており、隔絶した差があるので、地方の人間は反論できずかわいそうな状況になる。そこまで地方は準備をする手間をかけることができない。
では策定の手引きをつくるべきかというと、そうではない。手引きを作ると地方はその通りにつくってくる。
そもそも地方地自体は職員数が少なくて、今目の前の業務で手いっぱいだ。現状から更に加えて新しいことを考える暇がない。
自治体の地域創生に関する総合計画は、自治体自身が真剣に考えるなら、時間がかかっても良い。もういちど総合戦略を作ってもらう。
何も全国一律に作り直さなくても良い。国が一律に掛け声をかけて目標を定めると、どうしてもうまくいかない。
国が全ての自治体に基本計画を作ってほしいと言って、その策定の補助に1,000万円あげるというやり方をやってしまった。そうすると、もともと余力も時間もない地方は1,000万円もらえるのならもらっておこうという発想で、500万かけて(主に東京の)コンサルティング会社に外注することになってしまった。差額500万円だけでも手にはいるというお金の損得計算で実施可否を判断することになってしまう。
国側の問題もある。国も事業に対して成果を挙げなければならない。出生率改善や東京一局集中是正が本来の地方創生の目的なのに、日本全国総合戦略を作らせるという2次的目標に熱を出すようになる。
この5年で本質的な成果、取り組みが進んでいない。地方の創生事業は2〜30年というスパンで考えるべきだ。
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4.課題・原因の根本にあるもの
教育の問題が大きい。日本国民の価値観の多様化が進んでいない。
明治維新・戦災復興の価値観から変わっていない。だから、地方創生は達成されない。今までやってきたことは全て、対症療法だ。
(内閣府ではなく)文科省が地方創生にとって大事だ。
2〜30年かけて価値観の転換を図べきだ。
たとえば、海外の事例を考える。
フランスでは農村のいろんな人生、いろんな生き方があることを子供のころから親が教える。
いい給料をもらって都心でサラリーマンとして過ごす人生が本当に幸せなのか。
それ以外の価値観を、共生社会を共有するのが必要。一番重要な社会的意識だ。
ところで、地方創生の取り組みの中で、データに基づく取り組みが数多く提唱されている。この地方創生におけるデータオリエンテッドは道半ばだ。
地域の全体を見ても意味ない。自分達の地区・集落を見ないと意味ない。
自分の集落を地域の人たちが自分自身で考えられるようにしないと。
中央集権的な手法をやってきたからダメなんだ。
出生率をあげたり、東京一極集中是正は、この5年間で、全くできていない。もっと、本質的なことをやってほしいというのが私の主張。
国の考えは基本は間違えていないが、地域の人が冷めていればいくら関係人口というような事を言い出してもダメ。関係人口だけを増やすと言っても意味はない。
住民はどう考えてるのかという視点が大事。
Society5.0という最先端の技術的な取り組みを国は言っているが、そういう最先端の事をできない市町村が多い。だから、中央から専門家を派遣するという話になってしまうがそれではダメ。
地方創生は人を外部から借りてくるのではなく、育てるんですよ。
制度で決められていることは公務員でできるけど、日本民族の存続問題は地方公務員にはできない。
地域を経営するという視点が非常に重要だ。私も言い続けて、10年経ってやっと世の中に認識されるようになってきた。地域の方々は経営学を勉強した方が良い。
地域の経営というのは何か。それは地域の様々な人材、ノウハウ、資源を組み合わせて住民の幸福の最大化を図ることだ。
新しいキーワードと共に新しい仕組み、システムを導入しようという掛け声があるが、どんな立派なシステムでも動かすのは人だ。
これからの地方創生は人をどう育ていき、地域をどう経営していくかだ。
これから求められるのは地域に対する強烈な愛着心。地域のためになんとかしたいという心だ。
(以上、椎川氏談)
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5.誰のための何のための地方創生だったのか
さて、私の言葉で話を語ろう。
前記は椎川氏の講演の一部だ。最初は淡々と第2期の地方創生の取り組みについて解説していたのだが、第1期の地方創生事業の振り返りの話をするところで、なぜか一番最初の表題のみを記載したページに戻った。
そして、まったくスライドを変えることなく、堰を切ったように弾丸のごとく危機を訴え始めたのだ
椎川氏は地域おこし協力隊の創設者として非常に多くの地域を回り一緒に考え・行動を起こしたとのことなのだが、そこでとても厳しい実情に直面し、自身がいくら努力しても変わらない、そして自治体も現状の目の前の業務に撲殺され、思いはあっても行動に移せないがため未来に絶望した職員を数多く見たのだろう。
正に、きれいごとを抜きにしたリアル。生々しい現実の話であった。
今までの感覚でいえば、国も地方も間違えたことをしていない。かれらは一生懸命に頑張っているのだ。今までのやり方と発想で。
何が間違えているのか。そう、繰り返しになるが、今までのやり方と発想が間違えているのだ。
時代に合わないやり方と考え方になったことに気づかずにひたすら労力を費やしているのだ。
これまでの地方創生は明治維新・戦災復興の価値観にこりかたまり、中央集権を絶対的正解として疑わず、その価値観を変える事をせず、自身の頭で考えることをしない人の為に、構造的かつ長期的に取り組む必要がある深刻な社会問題に対して、短期的な業務成果(に見えるもの)を上げる事を目標とした事業だったのだ。
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6.では、どうすべきか
言うまでもなく、先の様なやり方で解決するはずがない。
地域は国に依存にせず、自主財源で自ら考え自ら経営する。真の自治を今から新たに始める必要がある。戦後70年経ても、未だなされていない自治だ。
国は中央集権によりトップダウンで国を経営する価値観を改め、日本の主役は地域であり国は下支えをする立場になるのだ。そのためには、財源と権限の委譲が伴う。もちろん国から積極的に動くことはないだろう。
だから、地方が経営手腕を高め自立することが必須だ。
国も地方も思考を停止し、目を背け、逃げたがっているだけなのだ。
しかし、椎名氏が言う”日本民族滅亡”からはもはや誰も逃げられない。
今やるか、それとも今までの様に先送りを繰り返し、完全に手遅れになって皆んなで一緒に崩壊するかのどちらかだ。
貴方なら、どちらを選ぶだろうか。
この話の続きは以下。
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