エクスペクト・パトローナム/魔法と心理学
昨夜TVで放送してましたね、ハリーポッター。
原作を読んだのも劇場で映画を観たのももはや随分前になりますが、思い出したことを綴ってみます。
このシリーズ、開始当初はとにかく「楽しいファンタジー児童書」という印象だったのですが、巻が進み主人公が年齢を重ねるにつれて、どんどん話が複雑に深くなっていくことに驚かされた記憶があります。
あくまで魔法の世界の冒険譚なのだけど、特に原作では人種差別やいじめ、偏向報道による被害など、昨今の社会問題を連想させるようなエピソードもかなり盛り込まれているんですよね。
そして私が個人的に「これはもはやファンタジーではない」と決定的に感じたのが、今回の「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」にて登場する「ディメンター」と「パトローナス」の話です。
「ディメンター」は、この物語の世界における魔物的な存在のひとつ。
人間から希望の心を失わせ、魂を奪う力を持ちます。
彼らに遭遇した人々は、途端に「楽しい気持ちや前向きな考えを一切持てなくなる」ような感覚を味わうことになります。
・・・この状態、魔物の居ない世界に生きる我々でも心当たりはありますよね。
いわゆる「心が折れた」とか「鬱」といわれるもの。もっと普遍的な言葉でいえば「絶望」。
現代の我々も、なにかとその脅威に晒され、囚われた人は命をも失い得る。それはとても残念だけど、この世の中で日々起こっていること。
そしてハリーポッターの世界には、このディメンターに対抗する魔法が存在し、その魔法というのが守護霊(パトローナス)を出現させること。
難しい魔法ですが、成功させるために必要なのは「幸せな記憶を強く呼び起こすこと」。
子供なりに色々苦労の多かった主人公のハリーも、この魔法のために自分の幸せな記憶を呼び起こすことを身に着け、学園生活の中で得た友達との楽しい時間や成功体験を経て、守護霊の出現を成功させます。
原作を初めて読んだ時、この設定に瞠目しました。
もはやこれ、魔法じゃなくて心理学の話だと思ったので。
過去の心温まる体験、幸せな瞬間の記憶が自分の「守護霊」になって、絶望や死から自分を遠ざけることは実際にある。
むしろ、そんな風にして心の病や自暴自棄に陥らないよう持ちこたえたという経験は、一定の長さを生きてきた人でなら誰でも少なからずあるんじゃないでしょうか。
だからこの話、この部分に関しては物凄く「現実」だと思うんです。
ファンタジーの物語という形は取っているものの。
守護霊を出現させるための呪文「エクスペクト・パトローナム!」というのが、映画の予告編でも使われて、なんだか必殺技の名前みたいに世の中で記憶されていたような気もしますが。
むしろ私はこの魔法の使い方を、人生の知恵のひとつとして、色々な人に覚えておいてほしいと思います。
この魔法は現実に存在する。
絶望の淵から自分を守るためには、過去の幸せな記憶やポジティブな思いを大切に、強く持っておくこと。
覚えておくことで、いざという時にあなたの未来や、命すら救うかもしれない。
残念ながら、そんな危機に一度も晒されずに生きていけるとは限らない(むしろそんな人は少ないであろう)世の中なので。
ファンタジー小説に織り交ぜられた真理が、現実世界において誰かを守ってくれればと願います。
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