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モチベの高い内部監査員の育て方《ISO14001解説#14》
誰もやりたがらない理由
この連載記事のサブタイトルにもある「18年間」について、その大半の時間をかけたのが内部監査の質の向上でした。
今回は、誰もやりたがらないであろう内部監査員の育成についての話です。
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環境活動において、ほとんどの企業で困っている要素の一つに、「内部監査員を誰もやりたがらない」という問題があるかと思います。
なぜ誰もやりたがらないのか、という原因を列挙します。
監査をするほど知識がないから
普段の業務に忙しいから
他部署を指摘する立場じゃないから
人前であれこれ説明するのが苦手だから
私が経験して得た主な理由はこんな感じです。
往々にしてどれも妥当な理由であって、私自身も納得できました。
しかし私の経験上、これら理由を無視し、拒否できない業務とし強制力をもって実施しても、より一層抵抗感が増すだけで本質的な解決にはなりませんでした。
ではどうしたら良いのか?
その解決方法について解説します。
1.有能な監査員を育てるには
内部監査というのは改善のきっかけを得る最も有効な手段です。
大なり小なり、組織というのは不具合が発生するものであり、それを自分たちの手で顕在化(検出)し、大きな問題になる前に対処すること(自浄作用)はどんな経営者でも理想とする姿だと思います。
それを実現するためには有能な監査員が必要不可欠ですが、その育成論についてはあまり見かけません。
・・・というのも、監査の質を左右する要素として、
監査員が有識者(専門家)であること
監査に用いるチェックリスト(ツール)の高精度化
これら2点が突出していて、もはや「どれだけ高性能な人・ツールを準備できるか」に議論が集中するからです。
すぐに結果がほしいのは重々承知ですが、質の高い監査を求めるのであれば少し時間を掛けてでも監査員を育成することがマネジメントシステムの為になる、と私は思います。
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話が逸れましたが、どうやったら「有能な監査員」を準備できるかという点について解説します。
結論としては、監査員本人の経歴と世代(職位階層)を考慮して選任することが有効です。
✅本人の経歴
必ずしも出世街道を歩んだ経歴の人が良いというわけではありません。
単純に、技術系/営業系/管理系/現場系などの業務経歴だけで充分です。
それらの情報を元にして「監査チームを編成する」ことが重要です。
例えば、製造現場の監査で2人の監査チームを編成する際、営業系の2人では有効な監査は期待ができません。
いろんな組み合わせが存在しますが・・・管理系+現場系の監査員で編成するなど、どういった経歴なら監査ができるか考える余地があります。
一人はその被監査部署を知っている経歴の人
もう一人は別の経歴の人
という組み合わせ理論です。
✅世代(職位階層)
マネジメントシステムの監査だから、管理層(マネージャー層)じゃないとダメだ!・・・ということも無いです。入社5年目くらいの若手でも充分可能です。
ここでも重要なのはその組み合わせです。
例えば、技術部門の監査で2人の監査チームを編成する際、1人は若い人を選任すると良いと思います。
被監査部署の特徴として、技術系は若い人材の割合が高い傾向にあります。その部署で働く同世代の人材が監査することによって、業務に対する視点の高さが揃うことが不具合検出に一役買うことがあります。
また、同じ視点に立つことで監査中の情報の取捨選択も比較的容易になるため、監査側の負担も減ります。
相互に理解し易い監査環境を作ることで、監査の抵抗感や難しさを減らすという理論です。
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最後に、監査員になることのメリットを創出する点についても触れておきます。
上述した段取りを構築できても、実際に人が集まらなければ意味がありません。監査員になった時の明確なメリットが必要になります。
そもそも業務なので、本来メリットなんて不必要です。
ただし、監査員を輩出してくれた部署や当人の上司から嫌味を言われたり、渋々監査をやっている人が多いのが実際問題でしょう。
それを放置すると、雰囲気が悪くなり続け、人不足&形骸化のサイクルに沈んでいくのです。
メリットとは簡単で、自己のスキルアップにつながる点を強調することです。詳細は3.具体例の項にて解説します。
2.条件(ISO14001への適合)
監査員については、ISO14001では言及されていません。
マネジメントシステム監査の指針というISO19011にて詳しく記載されています。
ISO19011は監査に必要なプログラム作成から監査員の質に関するガイドラインとなっています。
国際規格なので、日本的な人材育成とは異なる(悪く言えばドライで機械的な)アプローチで戸惑うかもしれません。
この規格について、私自身はよく参照していましたが・・・上司からは「関係ないから見なくていい」と拒絶されていました。
いわゆる「認証取得」に関係がないので、余計な労力は必要ないとの判断だったと思います。
ISO19011まで足を突っ込む企業は少ないと思います。
現時点ではISO19011についての解説は予定しておりませんが、当記事の反響によっては執筆するかもしれません。
3.よくある失敗例と具体例
それでは実際に私が実施した施策を紹介します。
1️⃣スキルアップを強調する
「監査員を通じてどんな学びがあったか」を、監査経験者の名前を公表するとともに社内PRを行いました。
その「学び」に関する意見の中で、
他部署の仕事を知ることができる
が最も多かったことを覚えています。
同じ会社でも他部署の仕事って知らないことが多いと思いますが、それを知ることによって自身の担当業務の効率化のヒントを発見することが多かったそうです。
その土産話を自部署に持ち帰り、業務改善に活用することで本人の成果につながったという話も聞きました。
監査員の経験がスキルアップにつながる証拠でした。
またおまけの話ですが、教育部門の部署にも説明を行い、監査経験を教育の一つとして登録もしてもらいました。直接的な効果や恩恵があるわけではないのですが、会社として認可されている業務という後ろ盾は有り難かったです。
2️⃣各部署に選任を促す
自発的に監査員になりたい人なんて都合よくいません。
しかし、他発的に監査員にしたい人はニーズがありました。
各部聞き取りをしている中で、環境に関する知見のある人員(部員)は欲しい、という話を多くいただきました(だからといって監査に協力的ではない)。
そこで、監査員を通じてスキルアップする話をベースに、毎年1名、各部から監査員候補生を選出してもらう流れを作りました。
監査員養成研修を受講してもらいますが、実際の監査に選任されるかどうかはわからない、という条件で理解を得られました。
この制度を3年ほど続けた結果、各部署から「今年の監査員養成研修はいつ頃か?」という問い合わせが増え、こちらが募集をかけなくても各部から候補生が集まる状況になりました。
養成研修の受講者は毎年20名ほど、実際の監査に新人として抜擢される人数は5名ほどというバランスが良かったのかもしれません。
各部署から選任を促す流れは大成功でした。
3️⃣一部の教育を免除する
最後は、監査員を経験すると環境教育の一部を免除するという条件です。
ある程度の職位になると、環境マネジメントシステムの全貌を知る教育の受講を義務付けていました。
しかし、監査員経験がある人はそれをパスしてよいという緩和条件を策定したところ、教育の重複感もなくなり「ありがたい」という意見をいただけました。
特に、まとまった時間の取りにくい部長以上に好評でした。
4.まとめ
話が長くなってしまったため、まとめた表を下記に示します。
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こういった施策を実施したことで、監査員が主体的に監査に取り組めるようになり、なんとなくやらされている感はかなり払拭できました。
実はこれらの施策以外にも、監査チェックリスト(ツール)、監査計画(スケジュール)、監査員養成研修(レクチャー)、監査後アンケート(フィードバック)の実施に工夫を施しています。
詳しい解説は別途執筆する・・・かもしれません。
これらの総合的な取り組み成果によって、監査員のモチベがあがり充実度の高い監査にできました。
実際の監査指標についても、不具合検出数が倍以上になりつつも、監査を受けた部署から「役立つ発見を得られた良い監査だった」と喜びの声すら聞けたのは、担当者冥利に尽きました。
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今回は、監査の質を高める手法の第3回目の記事となりました。
次回は監査から離れた記事になります。
まだまだ紹介しきれていない監査の質向上の施策について、例文、助言やコンサルタントに関する依頼については私のXからお問い合わせください。
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以上となります。次回もお楽しみに!