⑤ 「学習指導要領」に示された指導事項3 ー 場面1
物語を読めるようにしていくためには、今まで述べてきた「自然と身についてはこない力」である「文学の言語」(「叙述」や「描写」)が読める力をつけていくことが大切です。そして、それに加えて「自然と身についてくる力」である思考する力について学び直してよりよく活用できるようにしていくことも重要になってきます。
物語を読んでいくためには、「物語的思考」(自分の言いたいことを「物語として伝える」ための思考の在り方)について学び直していくことになります。
「叙述」(「描写」を含む)が読めても物語は読めません。マガジン「小学校の国語科の授業 説明文編」でも述べたように、説明文が読めるためには「論理的思考・表現の在り方」(学習指導要領で示された「段落相互の関係」「文章全体の構成」)について学び直しそれを活用していく必要があります。物語においても同じことなのです。
③で示した「思考力、判断力、表現力等」の「読むこと」領域における物語に関する指導事項を見直してください。「物語的思考」に関しては以下のものが関連してきます。
<第1学年及び第2学年>
イ 場面の様子や登場人物の行動など、内容の大体を捉えること。
エ 場面の様子に着目して、登場人物の行動を具体的に想像すること。
<第3学年及び第4学年>
エ 登場人物の気持ちの変化や性格、情景について、場面の移り変わりと結び付けて具体的に想像すること。
「場面の様子」「場面の移り変わり」とあるように、「場面」の在り方が「物語的思考」を表していることになります。
市毛勝雄氏は、物語の基本形として以下に示すような「初め-中-終わり」という構造があると論じています(「読解指導の方法としての授業の筋道」『教育科学国語教育№404 臨時増刊』明治図書出版より)。
初 め - 中心人物の初めのイメージ
終わり - 中心人物の最後のイメージ
中 - 変化の要因
この構造は、中心人物の変化の過程を構造的にとらえたものとなります。そして、市毛氏は「登場人物の変貌に着目させるという指導は、文学作品の構成そのものに気づかせようとする意図を秘めている」とこの構造について論じています。さらに、「人物像の変化の理由を考えさせると、物語のテーマ、主題を考えさせたことになる」とまで言及してます。
本マガジンにおいては、自分の言いたいことを「物語として伝える」ための思考の在り方が「物語的思考」であると定義してきました。市毛氏の構造で言えば、「中」において「人物像の変化の理由」に筆者の言いたいこと(主題)があらわれていることになります。つまり、物語とは「人物像の変化」という構造的枠組みを活用してその構造の要素となる「変化の理由」の中に筆者の言いたいこと(主題)を仮託した表現であると言えるのです。よって、「物語的思考」とは、自分の言いたいことが表現できるようにこの構造(初め・終わり・中)を組み立てていくこととなります。
本マガジン以降においては、指導事項に示されている「場面」を「初め・終わり・中」という構造をもつものと定義して論じていくことにします。