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秋の魚でおひとり宴

今日のうまい肴は、どこに潜んでいるか分からないものだ。

旅行から帰った翌日。夫は仕事の都合で外で食べてくると言う。つまり私、ひとり。しかしながら、旅行っていうのはお金が気づかぬうちに懐からいなくなっているもの。よって、私のお財布事情もなかなかのっぴきならず、さすがにハメを外して豪遊、という気にはなれない。そんな日だった。

コンビニでそっとしたおつまみを買って晩酌といこうか。ううん……いつもはワクワクする案もなんだかしっくりこない。活路を見出せないまま、ひとまず財布よりもすっからかんの冷蔵庫を満たそうとスーパーに出かけた。

スーパーって、大安売りと掲げていなくてもたまに「当たりだ」と思う日がある。食材の質が良くて、欲しいものが揃っていて、しかも安い。そういう福引きのガラガラで2等くらいの玉が出てきたような日。

私が2等を確信したのは魚売り場でのこと。それなりに肉付きの良いサンマ!カツオのたたきが、や、安い……!ビバ、旬!

普段だったら1回の食卓にお魚は1種類で済ませるところだけど、どちらもいけちゃう気がした。お腹的にも、懐的にも、だ。先ほどまでのどよんとした気持ちが一転し、急遽決まった秋のひとり飲み宴に弾む足で帰宅する。さぁさ、さっそく準備に取りかかりましょうね!

さくで買ったカツオをよき厚さで切って、たくさんの薬味をかけたら一旦冷蔵庫へ。続いて速やかに冷凍枝豆をレンジに放り込んだら、あとは温かく食べたい料理たちだけだ。

湯豆腐はあっさり白だしにちょっぴり垂らした醤油で優しく味付け。具材が欲しかったけれどこれといったものがなく、冷凍していたしいたけと乾燥わかめで豆腐・わかめ・しいたけの味噌汁トリオな湯豆腐となった。

サンマは本当は1尾丸ごと焼きたいけれど、フライパン調理を守りたかったので半分に切る。はらわたの有無はどちらでも良い派だけど、切ったときに傷つけてしまったのが気になり、今回は焼く前に処理してしまった。

さぁ、ここまできたらあとは座るだけ。ずらりと並んだおつまみが私を待っているぞ!大好きなあのビールを出してプシュッ!グラスにとくとくとく。シュワシュワワ〜。いざ、乾杯〜〜!

まずは大好きなあのビールことエビスのビールを喉に流し込む。うぅー、久しぶり。エビスって缶を眺めているだけでもなんだか贅沢な気持ちになるよね。今日は和食を食べるぞ!というときに選びたくなる。そんなエビス様を選べたのも、豊かなおつまみがリーズナブルに手に入ったおかげ。旬とは恵み。ありがたや〜。

ビールを流し込んだらおつまみもいきましょう。カツオのたたきはとにかく薬味たっぷりがいい。たまたま寿司を食べたときに残した小袋のガリがあったので、これも一緒にいただいてみることにした。旬の魚は臭みが少なく、身が締まっていておいしい。薬味とポン酢をたっぷりつけると香りもよく、最高だ。……最高だ!

温かいうちにサンマにも箸を入れ、醤油を垂らした大根おろしをしっかり乗せて一緒に口へ。これだ、これこれ!水気を残した大根おろしと脂の乗ったサンマがたまらなく合う!ひと手間かけてでも大根おろしは絶対につけるべきだと、声を大にして言いたい。

枝豆、湯豆腐、そして魚たちを少しずつ食べながら、ゆっくりとビールを飲む。雑多なことに追われていたさっきまでの時間が、柔らかくなった気がした。

以前、男の友人と話していたとき、彼が同棲している彼女の話になったことがあった。食事について「彼女、なんかちょっとズレてるんだよな」と言う。

「だってさ、めちゃくちゃ疲れて帰って早く寝たいのに、鍋だったんだよ。鍋ってさっとは食べられないじゃん。なんでよりによって今日鍋にした?って思った」

はて、あなたのために作ってくれてるのに?という心情を置いておいたとしても、なんだかギクッとしてしまった。私ってば鍋が好きなので、平日に出てきてもワッホイと思ってしまうし、作り手からすると簡単でつい「今日鍋にしちゃおうっと」って浮かんでしまう。そうか、鍋は食べるのに時間のかかる食べ物なのか。それまで考えたこともなかった。

相手を思っていても時にひとりよがりになってしまうエピソードは、生きているとままあって、少し悲しい。食の価値観は案外個性があって、なかなかピッタリ合う人はいない。それなのに、なぜだか自分があたかもスタンダードかのように感じてしまうから不思議だ。私が幸せだなぁと思うこの時間も、人によっては何も幸せじゃなかったりする。

だけどやっぱり、食べるは生きることだから。忙しい日はサッと食べても、たまには自分の好きなものを食べて、柔らかい時間を過ごすことを、私はすすめていきたい。

それはもしかしたら、食べることだけにとどまる話ではないのかもしれない。

コンビニはとても手軽だし、なんでも手に入る。外食だって、おいしいものが夢のように出てきて、食べること、飲むことにただただ全集中できる。だけど、なんだか時間に追われているような日々に、スーパーで安く買ってきた旬のおつまみを、こうしたらどうだろうと考えて、料理して、過程から楽しむのもとっても贅沢な時間のような気がした。毎日じゃなくても、たまには深呼吸のようなこんな日があったらいいよね。

涼しく食欲が膨らむ秋といえど、ゆっくりと食べていたらすっかりお腹がいっぱいになった。物足りなかったときのために買っていた〆の出番はまた今度。秋の夜の宴もこれにてお開きとしましょう。ごちそうさまでした!

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みっき
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