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クールな男を演じるべきか

演じるべきではない。

僕のパートナーは学生時代の部活でケガをして、膝の腱が1本切れている。なのでちょっとしたことで膝の皿がずれて激痛が走ってしまう。

僕は彼女に、
「僕は君が心配だ、手術したほうがいいぜ」とか、
「歳をとる前に手術しないと回復が遅いぜ」とか、

目から「キラン」という音が出しながら流し目でカッコよく諭していた。

ある夜、子供に絵本を読むために、あぐらをかいて座っているパートナーの上に息子がストンと乗ったとき、皿がずれてしまった。いつもはすぐ戻るのだが、今回は戻らず、見た目でもわかるぐらい皿がずれていた。

パートナーの顔はみるみる青くなっていき、激痛にもだえ苦しんでいた。あまりにも痛そうで、助けようと1mmでも動かすと激痛に叫ぶ。

僕はそれを見てパニック。救急車を呼ぶために手に持ったスマホがガクガク震え、「きゅきゅきゅきゅきゅうしゃ呼ぶから!」と言った。
僕の足も震え、腰を抜かしてへたり込んだ。

その後救急隊員が来て、パートナーを救急車まで運ぶが、1mmでも動かすと激痛なのでパートナーは阿鼻叫喚。

パートナーが「ぎゃあああああ」というたびに僕は「ひぃいいいいい」と言った。救急隊員は「ちっ、うるさいな」って感じだっただろう。
なのでテンポとしては「ぎゃあひいち」だ。沖縄の名物料理っぽい響きだ。

「ぎゃあひいち」を何回か繰り返してようやく救急車にたどり着き、乗り込む寸前、

「スポっ」

いや、実際はそんな音はしていないが、パートナーの膝の皿が元の位置に戻った。「あ、治ったので救急車大丈夫です、申し訳ありません」と言って家に戻ったら、さっさと寝かしつけに入った。母親は強い。

僕は心底安堵すると同時に、キランとした流し目で「僕は君が心配だ、手術したほうがいいぜ」とか「歳をとる前に手術しないと回復が遅いぜ」と言っていた自分を恥ずかしく思った。

その後「きゅきゅきゅきゅ」とか「ひぃぃぃ」とか言っちゃうのだから。




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