会社の6期目を終えて、自分自身の失敗に気付けた話
株式会社デプロイゲートを2014年12月11日に登記して、ちょうど6年が経ちました。11月末で会社の第6期が終わり、7期目に突入しています。
会社としての所感を書くとすれば、普通は「こんなに上手くやってるぞ」ということを書くかと思うんですが、今日はどちらかというと反対のことを書きます。
デプロイゲートは、会社として6歳を迎えました。人間であればもう小学生になる歳です。
会社も成長します。同じ所に止まっていることはできません。組織の形を変えていくため、1年ちょっと前に、会社の持つファンクションをすべて洗い出しました。そして、あるべき理想の姿を描きつつ、そこに向けて少しずつ形を変えていっています。
「考えることに時間を掛けすぎても仕方がない」と、毎週の定例で進捗を確認しながら、とりあえずある程度の方向性で運用を始め、課題に直面しながら、上手くいかない所を直して、と、日々試行錯誤を回しています。ちょっとずつですが、前に進んでいます。そしてありがたいことに、売上も6期連続で上がっています。
組織が整理され、オペレーションが改善され、売上が上がり続ける。経営者としては嬉しい話です。でも売上が上がっていると、見ないで済んでしまうものもでてきます。
自分自身の失敗です。
私たちのサービスDeployGateには、いまこの瞬間もたくさんのアプリがアップロードされ、あらゆるアプリ開発現場を支えています。AppleやGoogleのプラットフォームのアップデートにも追従し、サービスを止めることなく、地道な改善やリファクタリングは続いています。
しかし、ここしばらくの間、DeployGateというプロダクトには目立った大きな新機能は出ていません。近年の売上の増加の要因は、市場の拡大による影響であって、プロダクトとしての積極的な戦略による成果ではないのです。
「勢いを付けてエンジニア職から抜け出す」—— 元エンジニアがプロダクトマネージャになるためにはそうする必要がある、と、プロダクトマネージャの定番書籍の一つである世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本(原著: Cracking the PM Interview) には書かれています。
私は、会社設立後も数年は開発者を続けており、3年前の記事でもまだ開発を続けていると書いていましたが、プロダクトの未来について考えることに時間を割くべく、昨年、コードを書く仕事から手を引きました。それによって、プロダクトの戦略を考えることにより集中することができる、そう考えていました。ソフトウェアエンジニアとしてコードを書かなくなるというのは大きな決断です。それだけの決断をすれば十分だと思っていました。
しかし現実には、「みんなが動けるよう細かい球拾いはしておかないと」「コードレビューぐらいはやらないと」といくつかの開発系の仕事を引き続き持ったままとなっており、二足のわらじを履いた状態でした。
これにより、二つの大きな問題が発生することになりました。
一つは、自分の「プロダクトマネージャとしての時間」が片手間になってしまったことです。ソフトウェアエンジニアリングとプロダクトマネジメントは異なる専門の仕事であり、片手間でできる仕事ではありません。今までのノウハウは捨て、何も持たないところから一端のプロダクトマネージャを目指すためには、そもそも勉強からやっていくだけの時間が必要なのです。
「エンジニアリングマネージャーになりました、CTOになりました、どうしたらよいですか」と相談された時に「今まで読んだ技術書の数を思い出してください、その時と同じ数のマネジメントの本を読んでください」とアドバイスをします。
【連載13】日本CTO協会代表理事・松岡氏のキャリア戦略とCTO協会の目指すDXとは - TECH Street (テックストリート)
それ以上にマズいのは二つ目の問題で、自分は誰かにタスクを投げることができない状況に陥っていました。実装について具体的に知っていたことで「機能の実現可能性について自分で調べよう」「実現手段もクリアにしないと実装者が困るだろう」と手段までを考えてしまっていたのです。
プロダクトマネージャの仕事は、各種ステークホルダーとコミュニケーションを取りながら、プロダクトの方向性を定めて共有し、軌道修正を繰り返し、成功に導くことです。実装を考えるのは仕事ではありません。プロダクトマネージャをやると宣言した自分自身が「考えることに時間を掛けすぎる」ところからなかなか抜け出せないまま、すべてのボトルネックになっていました。
会社の上の方で何かが進んでいるらしい。でもなかなか出てこない。また結論が先延ばしになった。いつ形が見えてくるのだろう——そんな状況をずいぶん続けてしまいました。コロナ禍によってフルリモートになったことが後押しして、私のやっていることはさらに見えづらくなってしまいました。
この記事の最初の方で、オペレーションの改善が続いている、と書きました。フワッとした課題を、いやいやそれじゃ分かんないよ、と壁打ちしながら具体化して、いい感じに要件に落として解決していく。そんなことができる、十分優秀なメンバーの集まったチームがここにはあります。にもかかかわらず、自分はそれを信頼して任せることができていなかったのです。
ズームアウトして見てみると、プロダクトマネージャとしてだけではなく、プロダクトオーナー、そして経営者としても同じことをしていることに気付きました。経営者なのに、従業員への依頼がうまくできない状態です。文字にすると、相当致命的です。
会社はなんとなく上手くいっている。でも、どこか上手くいってない。それが何故なのか分からない。メンバーに指摘されて、その理由の根幹に気付く機会を得ることができました。それが、会社の6期目も終わりかけた、この10月の話です。
自分ができてないことに直面したとき、それに向き合うのは辛いことです。それが意識的でも無意識でも、今まで避けてきたことなら尚更です。でも、落ち着いて考えると、その機会が得られたのはラッキーなことです。
自分や、自分のチームや、自分の組織に関してうまくいっていない部分を耳にしたときは、宝石を手にしたようなものだ。もう問題は認識したのだから、それに取り組むことができる。これ以上にワクワクすることはないね。問題を認識していなかったら、それこそ本当に恐ろしい
—— アラン・ムラーリー (引用元: ターシャ・ユーリック,中竹竜二. insight(インサイト)いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力)
自分の仕事はWhyとWhatに集中することです。Howを考えるのは自分の仕事ではありません。それは、チームを信頼し、任せていくことです。その上で、最終的な責任は自分が持ちます。それが自分の役目です。
そんな、どんな経営本にも書いてありそうなことを、ここへ来てようやく認識したのでした。自分はHowを考えないようにする、結論の出ていない情報も共有していく、丸投げになっていたら教えてほしい、と、10月末にチームへ共有しました。
そこから、自分の役割の再定義、自分にとっての働き方改革が続いています。辛い所もたくさんあり、耳が痛い話もまだまだあります。目の前のタスクを自分でやってしまいがちな傾向は、デプロイゲートの経営陣2人とも共通していて、「渡せてたと思ってたけどそうでもなかった」仕事が次々と出てきています。
いい変化も現れ始めています。Howの思考から離れ、WhyとWhatに向き合う時間が増えるにつれて、明らかに顧客視点での判断がしやすくなりました。理想のあり方だけでなく、目の前にある課題を捉える視点が変わってきているという実感があります。また、チームからも変化について前向きな反応をもらえています。
会社としてできていると思っていたことが、意外とできていない。それを受け容れつつ、皆の協力を得ながら、静かに仕組みを変えていっています。まだいろんな役割は兼ねながらも、今度こそ、自分にしかできない仕事に専念する状況を整えていきます。
というわけで今回は、6年続けている会社の代表も、こんな課題で失敗しているよ、というお話でした。
事業の成長に向けて、会社としてどうアプローチするのか、やり方は経営者それぞれ違ってよいと私は思っています。
私たちは、「年商1000億円を目指すぞ!」や「上場するぞ!」といったマイルストーンは持っていません。でも、「開発チームに必要な声を届ける」というミッションを持っています。
そのためにも、とにかく皆さんのお仕事を止めないことは大事にしながら、継続的な改善を重ね、より「ユーザーと共につくり、ユーザーの期待を超える」プロダクトが生まれる世界を目指して、自分達なりに取り組み続けていきたいと考えています。
第7期のデプロイゲートも引き続きよろしくお願いします。
最後に: noteでは引き続き、デプロイゲート社の組織面について紹介していきます。興味のある方は是非 Inside DeployGate マガジンをフォローしていただければと思います。なお私のTwitterは@tnjです。こちらもよしなに。