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あなたは若さと物欲のどちらを選択する?ラブコメ✖️SFミステリーの傑作コミカライズ『夏へのトンネル、さよならの出口 群青』
【レビュアー/栗俣力也】
田舎の高校に都会から女の子が転校してくる。
そんな昔の青春ものでよくあった物語から始まる『夏へのトンネル、さよならの出口 群青』。
2022年に劇場版アニメの公開も予定されている本作は、ラブコメを軸にSFミステリーの面白さを描いた作品なのだ。
転校してきたヒロイン・花城は、目立つ存在であったためにクラスの女子カーストのトップ・川崎から嫌がらせを受ける。しかしそれに対して花城は、全く信念を曲げず、さらに川崎を殴るなどをしていじめを跳ね返してしまう。
花城のそんな行動をきっかけに彼女の事を意識し始めるのが、この物語の主人公・塔野だ。
ここまでのヒロインの登場時のインパクトは、いわゆる普通のラブコメ。しかし、この作品の真ん中にあるのは、そんなセンセーショナルな登場をした彼女ではないのだ。
「ウラシマトンネル」という不思議な噂話がその後描かれる。
「そのトンネルに入れば欲しいものがなんでも手に入る」のだが、その代わり「年を取ってしまう」というのだ。簡単に言えばおじいさんやおばあさんになってしまうらしい。若さと物欲どちらをとる? というような噂話だ。
このウラシマトンネルを実際に塔野は見つけてしまう。
中に入ってみるとそこには確かに「彼が求めている欲しいもの」のひとかけらがあった。
噂話を思い出し、怖くなってトンネルから走って飛び出す塔野。
ふと携帯を見て見るとそこに記されていた日にちは自分の認識している日にちから「1週間後」となっていたのだ。彼の過去の大きな後悔と、そこにあるはずだった何よりも大切なものへの想いが、このトンネルという存在と交差し物語は大きく動き出す。
そして、東京から転校してきた特別な存在・花城…。そんな花城から影響を受け変わっていく川崎。ふたりのヒロインがこの物語をさらに面白いものにしていく。誰もが子供から大人になるきっかけが人生のどこかに存在する。
「大人になったよ」なんて誰も教えてくれない。
この物語はそんな瞬間を切り取った物語。どこまで行ってもフィクションであるのに感情はリアルで。そこに懐かしさを感じる方も多いのではないだろうか?
映画公開前にぜひ一度読んでいただきたい。そんな作品だ。