本当の自分はどこに住んでいるのだろうか?迷走する自分を見つけに行く作品『アイ’ム ホーム』
※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)
【レビュアー/堀江貴文】
1997-1998年にビッグコミックオリジナルに連載された比較的古い作品だが、以前にドラマ化されていたにも関わらずキムタク主演で再度ドラマ化された名作である。
なにしろこの漫画の凄い所は主人公の家族が全員仮面を被ったような描写をされていることだ。奥さんや子どもたち家族が仮面のまま描かれる。対して主人公の元家族や懐かしい友人たちはみんな普通の顔として描かれている。
同種の漫画には浅野いにお氏の『おやすみプンプン』などがある(主人公の家族は良くわからない鳥みたいな生物として描かれている)が、それにしても不気味な仮面家族なのである。
主人公はなぜそんな状態になったのかといえば、単身赴任先のアパートでの火事による一酸化炭素中毒が原因で最近の記憶が飛んでしまっていたことである。
彼は沢山の鍵がついたキーチェーンと古い記憶を頼りに様々な彼の「ホーム」を渡り歩き記憶をつなぎ合わせていく。それは愛人の家だったり旧友の家だったり。
既に記憶喪失で閑職に追いやられ穏やかな暮らしをしていた彼が実はバリバリのエリート銀行員で周りの人達や離婚した家族たちとの間に大きな軋轢を作っていたことを思い出していく。
そこがなんというか、石坂啓氏らしい描写というのか本来今の愛するべき家族が仮面に見えてしまっているのにも関わらず、捨ててしまった昔の家族や友人たちが愛するべき人達のように見えてしまうように描かれている。
捨てられた人達の戸惑いの状況や、再び主人公を受け入れていく様が妙に生々しい。
本来の彼が持っていた資質なのだろうか、人間の本質とは何なのだろうか、環境が変えてしまった彼の人格というものを考えてみると、自分の功名心や出世欲というものが周りにどのような影響を与えているのか自省したくなるようないたたまれない気持ちにさせられる部分も多い。
そしてエンディングについては伏せるが、石坂氏らしい淡々とした現実とはこういうものなのだろうな、という結末になっていることだけはお伝えする。ドラマ作品と併せて原作も読むとさらに興味深いだろう。