人間の「底」を描いた、反面教師であり最高の女友達『パーマネント野ばら』
【レビュアー/こやま淳子】
なんといってもサイバラである。
「底辺」の人々を描かせたら、この人の右に出る作家はいないだろう。そう唸ってしまうのが、この『パーマネント野ばら』だ。
菅野美穂主演、吉田大八監督で映画化もされた作品で、なるほど、確かにこれは映画にしたくなるような文学性がある。
最初に読んだときは、ちょっと心が弱っていたのか、読みながら号泣してしまったのを覚えている。しかし今回読み返したら、めちゃくちゃ笑えて、しみじみと怖い話だった。まあ、なんというか、そういう意味でも人間の「底」を描いている。
底抜けに明るいけれど、底知れず切ない。大人の女のザンゲ室。
舞台は、名作『ぼくんち』でも出てきた高知県の漁村。この田舎町の唯一の美容院「パーマネント野ばら」は、女のザンゲ室。山あいのハウス農家のおばちゃん達のパンチパーマを一手に引き受けながら、恋や人生に疲れた女たちが好きなだけ泣いてスッキリしていくという駆け込み寺のような役割も果たしている。
その野ばらの出戻り娘である「なおこ」を中心に、たくさんのおばちゃんやおじちゃんや子どもたちが出てくるが、だいたい全員が何かしら傷を抱えていながらも、めちゃくちゃ下品でめちゃくちゃ明るい。
「けどな、けどな、私のことなんか誰もみてくれてないし ほめてもくれへん
生きていくのをほめてもらうのはあかん事なんやろか」
なんて泣いていたおばちゃんが、次のコマでは浮気中のダンナを車でおいまわして引いて
まいったわー ケーサツと病院行ったらもうダンナ血まみれでよー
とかっかっかっかって笑っていたりする。この豪快なリズム感は、どうしようもなくサイバラである。
そしてこの「底辺」の人々を描く目線は、どこまでも優しい。
物語全体を覆うのは、主人公なおこの詩的なモノローグ。下品な女たちの物語があまりにも現実的なのに比べ、ここの部分は切なくて美しくて時にふわふわしている。その理由は最後にわかってどーんとびっくりさせられる。
まあ、この作品のいちばん「文学」なところですね。ここがちょっと怖いんだけど、うわあ人間してるなあという変な感動もあったりする。そして読み終えると、不思議と生きるパワーが湧いてくる。
この物語は、こんな風になっちゃダメだっていう反面教師を描いているようでもあり、ダメな自分を肯定してくれる最高の女友達のようでもある。
お金がなくても、男運がなくても、モラルも、品も、賢さもなくても、ま、いーじゃん別に。
心ゆくまで話して、パーマ当てて、思う存分泣いて、また生きていけばいいじゃんって。
底抜けに明るくて底知れず切ない、時代を超えた名作だと思う。