閉ざしてしまった被虐待児の心を救う方法『ホームドラマしか知らない』
【レビュアー/和久井香菜子】
突然ですが、わたくし和久井はここで、ルフィよろしく宣言いたします。
「億万長者に!!! おれはなるっ!!」と。
被虐待児の心理を描く物語
さて今回紹介する作品は『ホームドラマしか知らない』です。
とにかく絵が綺麗です。めっちゃ洗練されたタッチで、めっちゃ重たいテーマを扱っているのですが、それによって良い化学反応がおこり、心理描写にグッときます。
主人公は両親に子どもとして保護されていない少年・レオ。彼の母親はレオを置いて家を出ていってしまいました。そして父親は自分の恋愛が大事で「お前さえいなければ俺も再婚できるのに」などとのたまいます。
レオは父親から否定されてばかりいたので、人の好意を素直に受け止めることができません。何を言われても「結構です」「いりません」。感情を表に出すこともなく、いつでも客観的な視点で話をします。
『ホームドラマしか知らない』(都戸利津/白泉社)1巻より
そして父親はとうとうレオに「出ていけ」と言い出します。
そんなレオが出会った「家族」が、母親の再婚相手の弟で美大生の透介。父親に捨てられたレオは、夏休みの間、透介の家に住むことになりました。
子どものような大人の透介と、大人のような子どものレオ
自由奔放に生きる透介は、キャラクターグッズが大好きだし、レオをダシにしてレストランでおもちゃをもらったりして、大人っぽさゼロ。レオとは対照的に泣いて笑って、感情豊かです。子どもっぽい透介と、大人っぽいレオ。2人は立場が逆転したかのよう。
『ホームドラマしか知らない』(都戸利津/白泉社)1巻より
それが、レオにとって「自分がいてもいい」という許可証になっていきます。
透介が喜ぶたび、レオに感謝をするたびに、「透介を喜ばせたら、透介の役に立ったら、俺がここにいてよかったと思ってくれるかな」と考えるようになります。
めっちゃ苦しいです。
初めて大人から必要とされたことで、レオは深く透介に依存していきます。
レオは自己分析ができる子なので、その依存は大きな問題にはならないとは思う、というかそう願っています。続きが非常に気になります。
いまここに、私は宣言いたします。
そこで冒頭の発言に戻ります。
私は透介になりたい。
人は、自分が認められて、自分の未来の可能性が信じられたら、何にだってなれるんです。
私は両親から、自身のやりたいことを反対され、私の能力を見つけても伸ばしてももらえませんでした。
でも運良く、私の能力と未来を信じてくれた女性が現れて、ようやく少しずつ自分を信じることができるようになったんです。
親とは違う価値観を持ち、教師でも保護者でもない大人と関わることは、人生を構築する上でとても重要です。そんなお話が、『君たちはどう生きるか』ですね。
特に親から暴力を受ける、精神的にハラスメントを受けるといった、子どもを保護する資格のない親に育てられた子どもは、自己否定感が強い。それでは生きていくのがとても辛いです。
虐待の実録コミックというと、ささやななえさんの『凍りついた瞳』が最初でしょうか。その後「毒親」という言葉が生まれてから、虐待サバイバーのかたたちが声をあげるコミックエッセイがたくさん出るようになりました。こんなにも辛い思いをした子どもたちがいるのかと驚かされます。
彼らが前向きに社会に出て行けるよう手助けをするのに、先ずは億万長者になりたいんです。経営している会社を大きくして、お金をいっぱい稼いだら「ハウス産屋敷」をつくって、自宅に帰りづらい子どもたちのケアをしたいなと思っています。
すっごいでっかい夢だけど、叶えるためにまず言いふらしてます。
「億万長者に!!! おれはなるっ!!」