![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70601863/rectangle_large_type_2_9ceac9008f16772110eb61d5d226c611.jpg?width=1200)
戦慄の短編「鬼」収録! 安定した精神不安定を描く浄土るるの、「鬱作品」と片付けたくない短編集『地獄色』
【レビュアー/栗俣力也】
2019年、当時17歳だった浄土るる先生の「鬼」という作品が小学館新人コミック大賞で佳作を取り公開された。
公開されるやSNSを中心に大きな話題となったので、漫画をある一定度読んでいる方ならば知っている人は多いのではないだろうか?
少女・江田子豆は、クラスの人気者で運動とおしゃべりが大好きな普通の女の子・・・と、自分を自分で紹介した次の瞬間、彼女の母親が彼女の頭からビールをぶっかけているシーンが描かれる。
しかしその行動に特に触れられることもなく「お父さんはいなくて、お母さんと妹の三人暮らし♪」と楽しげな彼女自身の紹介文章が続いているのだ。
普通じゃない、この異常なアンバランス感がこの物語全体の異様な雰囲気を現していると言ってもいいかもしれない。
そこから少女のかなり酷い家庭環境がこの後も描かれ続け、学校での明るい彼女と家で繰り返しの描写が何とも言えない不安感を読者に抱き続けさせる。
そんなある日、彼女のクラスに転校生がやってくる。
明るい性格でないポンポコは転校すぐにクラスの虐めの対象となってしまうが、しかし子豆は気にせず彼と友達になろうと話しかけ続ける。
そして迎える結末は、誰にも想像できないようなものだったのだ。
精神的に安定しない時に感じる独特の不安。
まさにそれがこの短編集全体に漂っているのはそれだ。収録されている『猫殴り』『鬼』『神の沈黙』『こども』。
『鬼』以外の作品も、1つの例外もなく全ていわゆる“鬱作品”と言われるジャンルの作品なのだが、しかしどの作品も鬱作品とそんな一言で表現してしまいたくはないとも思ってしまう。
そう考えるとタイトル『地獄色』というのはこの1冊を非常にうまく表現した言葉のように思う。