サッカー界に不可欠なホペイロとは?知られざるもう一つのプロの世界が、ここにはある『サッカーの憂鬱~裏方イレブン~』
【レビュアー/工藤啓】
プロフェッショナルは、プロフェッショナルに支えられ
社会にはさまざまな役割があり、私たちの眼に留まるキラキラした役割を担うのはほんの一握りのひとたち。子どもの頃に夢見る職業の多くは、テレビやネットで見る輝かしいスポットライトを浴びたものばかりだ。
そんな存在になろうと、日夜努力を重ねたり、ひとの何倍もトレーニングしたりするが、それでも大半の人間はどこかで振り落とされる。それは圧倒的なスキルやリーダーシップ、肉体の強さやあふれ出る想像力を得てしても、ときに事故や怪我といった不可避な出来事によって道が閉ざされることもある。
しかし、光り輝く場所で、結果や成果を出す人間だけが、その世界を形作っているわけではない。プロフェッショナルは、別のプロフェッショナルに支えられ、応援されることによって、プロフェッショナル足り得ることを自覚している。
誰もひとりでは輝けず、誰もひとりでは活躍できない。
裏方を支えるプロフェッショナリズム
さまざまなプロフェッショナルが存在するなかでも、プロスポーツ選手の世界はひときわその光を強く発している。自らの心技体を極限まで高め、多くのプロになれなかった人間たちの夢を背負い、ときに国民の期待を背負って世界と闘う。
そんなプロスポーツのひとつがサッカー(フットボール)である。普段から応援する選手のために人生の一部をささげるソシオ(ファン)もいれば、4年に一度のワールドカップに熱狂するひとたちもいる。
『サッカー憂鬱~裏方イレブン~』は、そんなプロサッカー選手の「裏方」にいるプロフェッショナルの存在に光を差し込んだ一冊だ。これはサッカー業界における選手以外の職業として読むこともできるが、サッカー選手以外のプロフェッショナルが、その活躍の舞台をサッカーという世界に決断した、職業理解とキャリア形成の参考資料にもなり得る。
特にこれから職業や職種を考えたい若者や、転職や定年退職後のキャリアについて考え始めようとされるひとたちにも多くの示唆をもたらすだろう。
例えば、ホペイロという存在
サッカーをやっていれば聞いたことがある仕事、役割だろうが、一般的にどんな役割を果たすのかは知られていないのではないか。
「ホペイロ」とは ポルトガル語で「用具係」のこと 英語圏では「エクイップメント・マネージャー」と呼ばれている
試合や練習などで選手が使うユニフォームやスパイク ボールなどの用具の準備や片づけをする ホペイロは選手がサッカーにだけ集中できる環境を作るのが仕事だ
サッカースタジアムに足を運んだことがあっても、ホペイロを仕事にするひとを観ることはほとんどないだろう。そもそも選手がサッカーに集中できる環境を作るための業務は多く、実際にスタジアムでの試合中、観戦するのは前半10分足らず。しかも、各選手の状態や、芝や天候の移り変わりを確認するためだからだ。
選手の靴がよりグラウンド状態にマッチするための助言や用具管理はもとより、選手の中に日本語ができず通訳を要する場合には、通訳の椅子の位置までも考え、準備をする。靴の変更によって選手がグラウンド上で輝いたとき、真っ先に感謝される存在がホペイロかもしれない。
いま自分の仕事を振り返り、多くの人に拍手を送られるような成果を出せたとき、私たちは「ホペイロ」のようなサポートをしてくれた人間に感謝の言葉を伝えるだろう。
それぞれの持ち場で輝くプロフェッショナルたち
ホペイロに限らず、本書ではサッカーを題材に、それぞれの持ち場で輝くプロフェッショナルが登場する。
・審判
・クラブ広報
・実況アナウンサー
・第3ゴールキーパー
・スポーツカメラマン
・通訳
・ユースコーチ
・チームドクター
・クラブ社長
・ターフキーパー
・代表料理人
・代理人
・ライター
・クラブ営業マン
・サポーター
・フィジカルコーチ
どの仕事もグラウンドでボールを追いかけ、身体をぶつけながらプレーする選手ではない。しかし、それぞれがプロフェッショナルとして、自分の仕事に誇りを持ち、仕事をしている。
それはサッカーに限らず、どこの領域でも同じだろう。見えやすい、輝きを得やすい職業や職種の「裏方」で活躍する存在がいる。
しかし、本書が教えるのは、一方からは「裏方」に見えた人でも、違う側面からみれば「輝かしいプロフェッショナル」であるということだ。
表舞台も裏舞台も、それは見ている方向次第であり、重要なのはどんな役割であっても、プロフェッショナリズムなくしては成立しないということだ。
プロフェッショナルとは、自らのプロフェッショナリズムに誇りを持ち、自分以外のプロフェッショナルに尊敬と敬意を持って接する人間である。