「アンタ達、デバッグモード使ってるな?」ゲーム世界で無双できるにも関わらず、コツコツデバッグし続ける主人公がいとおしい…『この世界は不完全すぎる』
【レビュアー/新里裕人】
みなさんこんにちわ! ゲーム開発会社サイバーコネクトツーの新里です。
最近、小学生のなりたい職業の1位にゲームクリエイターが選ばれる等、「ゲーム開発」に対する世間の認知度がだいぶん上がってきた気がします。
ここで簡単にゲーム開発の流れを説明しておきましょう。
①企画・設計
まずは実際にゲームを作る前に、ゲームの設計を行います。
どんな性別・年齢層のユーザーにどんな形でアピールするのか?
どれだけの期間と人数(予算)をかけて作るのか?
そういった事をプランニングします。
②本開発
プランに従ってゲームを実際に制作していきます。
具体的にはゲームデザイナーが決めた仕様に従って、アーティストがゲーム素材を作成。プログラマーがゲームデータとしてプログラムを組み込んでいくという流れです。
多分、ここまでの流れは、ゲーム開発に興味を持った方なら何となく知っていると思います。最近では、ゲーム開発に関する出版物は大量に発売されているし、ネットで検索するだけでもかなりの情報が集まります。
しかし、ゲーム開発には必ず「この次の段階」があります。
③調整・デバッグ
実際にテストプレイを行う事によって、ゲームの不具合(つまりバグ)を洗い出します。単純なプログラムミスによる誤作動もあれば「敵の防御力が高すぎて倒せない」といったパラメーター設定のミスも含まれます。
デバッグの目的はただ一つ。「ゲームユーザーが気持ちよくプレイするため、それを妨げる要素を発見する」事。見つけ出された不具合は担当者に報告され、修正⇒再度デバッグ、を繰り返します。
ゲームの規模が大きくなればなるほど、デバッグと調整にかかる労力は乗算的に膨らんでいきます。ひたすら地味で、根気のいる作業ですが、この過程が入るからこそ、ゲームの商品としてのクオリティが守られるのです。
前置きが長くなりましたが、本作はこのゲームデバッグを仕事とする「デバッガ―」が主人公の漫画です。
舞台は開発中の大規模オンラインRPG。
一通りの開発が終わり、デバッグと調整期間に入ったこのゲームにデバッガーの一人として雇われた主人公でしたが、体感没入型のこのゲームにログインしたデバッガー全員が、なぜかログアウトできなくなります。
大半のデバッガーたちは仕事どころではなくなり、ゲーム世界で好き勝手に生きるようになりますが、真面目で気が小さい主人公は、未だにコツコツとデバッグを続けていきます。
デバッガーの目から見た新しい視点の冒険
例えばプレイヤーとしてファンタジー世界に降り立ったとします。
風景としてゲーム世界を眺めると、そそり立つ岩肌や巨大な城壁に感動を覚える所ですが、デバッガー視点では、コリジョン(通過できない壁)設定されたポリゴンの板に過ぎません。
こうした壁は、ポリゴンの継ぎ目で「壁抜け」することが良くあります。
3Dゲームのデバッグで頻繁に行われる「キャラクターを通路にズリズリこすりつけながら進む」が漫画の中にも登場して、思わず苦笑してしまいました。
デバッグコマンドVSグリッチ
ゲームには、デバッガーだけが使用する「デバッグコマンド」が用意されています。例えば、メインイベントの5章をデバッグするのに、毎回1章からゲームをプレイしていたら時間がいくらあっても足りないですよね?
だから1~4章をスキップしていきなり5章から開始する、ということがデバッグコマンドで可能だったりします。デバッグを効率的にするために用意されたものですが、これだと「1章から通しで5章までプレイした時だけ」発生する不具合は発見できません。
だから主人公は、かたくなにデバッグコマンドを使いませんが、仕事を放棄した他のデバッガーはデバッグコマンドを使いまくって、好き勝手に生活しています。
簡単に「無敵」になる事ができるので、気晴らしにNPCを殺戮したり、女性NPCを捕まえて奴隷にしたりしています。
主人公はそんな彼らと対立するのですが、デバッグコマンドを乱用する彼らとまともに対決しても勝てるわけがありません。
そんな時、主人公はデバッグで調べ歩いた「知識」で勝負します。
「グリッチ」とは、ゲームプレイに有用なバグの事です。前述の「壁抜け」も本来通れない場所に行く事ができるわけですが、こうしたゲームのイレギュラーを逆手にとる事で、デバッガーたちを出し抜いていくわけです。デバッグコマンドも「プログラム」である以上、バグには勝てません。
そして残念ながら、主人公たちのいる世界は「不完全すぎる(バグだらけ)」のです。
主人公が黙々と転送しているバグ報告ですが、リアルの世界で読んでいる人がいるのかわかりません。そして、この世界で「死亡」したプレイヤーがどうなるかも……。
現在コミック5巻まで刊行。
まだまだ謎は尽きないこの物語ですが、とても面白いのでぜひ読んでみて下さい!