水素水も空間除菌も腹筋鍛えるアレも。ビジネス界に溢れるエセ科学を痛快ぶった切り 『マンガでわかる! 今日からドヤれる科学リテラシー講座: 教えて! 夜子先生』
【レビュアー/ 山田 義久】
新型コロナウィルスと科学リテラシー
新型コロナ禍が始まってそろそろ1年ほどたつが、この1年ほど一人ひとりが科学リテラシーを問われる年はなかったのではないかと感じる。未知な部分が多いウイルスを前に、様々な情報が飛び交い、誰も確定的なことは言えない状況が長く続いた。
しかし、やはり一定の科学リテラシーを持っている人々は、少なくともパニくることはなかったと見える。
まぁ、この新型コロナ禍という特殊な状況においてだけでなく、普段から科学リテラシーが高いほうが、お金と時間を浪費するリスクを各段に減らすことができるのは確実だ。
ビジネス界にも溢れるエセ科学
おもしろい話がある。
近年、有名大学・有名企業出身者たちが起業して上場を目指し、一発あてるのが一種のムーブメントになっているが、その上場を達成した企業群のなかには、一定の科学リテラシーを持ってさえいれば(+今日紹介する作品を読めば)、エセ科学とわかる商品を作っている企業がけっこうある。
ちなみに一社は今日現在時価総額300億円以上、もう一社も500億円以上もある。
意外とビジネス界の上方に至るまでエセ科学が浸透しているのだ。そしてそれが成立するということはそれを欲する人が一定数以上いる…ということで、本当に何が正しくて、何が間違っているか、わからなくなってくる。
"科学者"がエセ科学をぶった切る本書
一方、そういったエセ科学を正すことを期待されている、科学者、ならび科学に精通している人々は、その知識、知性がゆえに謙虚であり、「あの製品はインチキだ!」とか言い切る人は少ない。科学者としては、それも正しい態度なのだ。
そんな状況の中、彼らに代わって世にあふれるエセ科学を、おそらく現役の"科学者"の方が、科学的見地からおもしろおかしくバッサバッサと痛快に切り捨てているのレアなギャグ漫画が本作なのだ(詳しくは後述)。
いくつか紹介しよう。
まず、ちょい前に話題になった水素水。これは水素を添加した水は水素水、では水素を添加した油はマーガリンということで、これを類似商品として情弱に売りつけると…。
『マンガでわかる! 今日からドヤれる科学リテラシー講座: 教えて! 夜子先生』(くられ/くがほたる/化学同人)43Pより引用
この漫画、素晴らしいのは各章の最後に会話形式で詳しくわかりやすい解説が掲載されていることだ。なかなか辛辣な解説に痺れる。
『マンガでわかる! 今日からドヤれる科学リテラシー講座: 教えて! 夜子先生』(くられ/くがほたる/化学同人)45Pより引用
そして、某有名サッカー選手が出演するCMでもよくみる、あの腰に巻きつけて腹筋を鍛えるという製品についてもなかなか辛辣だ。
『マンガでわかる! 今日からドヤれる科学リテラシー講座: 教えて! 夜子先生』(くられ/くがほたる/化学同人)51Pより引用
そして、時世的には空間除菌の章もなかなか痛快だ。空間除菌装置で新型コロナウィルスを除去した気になってしまうことの危険性に警鐘を鳴らしている。
『マンガでわかる! 今日からドヤれる科学リテラシー講座: 教えて! 夜子先生』(くられ/くがほたる/化学同人)119Pより引用
原案と解説は”フリーライターであり不良科学者”のくられ氏。エセ科学を憎む「ヘルドクター」と自称されている。
このかたの著作は本当におもしろくて『アリエナクナイ科学ノ教科書 ~空想設定を読み解く31講~』とか科学読み物として最高におもしろい。科学項目の記述も丁寧で、おそらくこの方、どこかの研究所か大学の偉い教授なのではと…個人的には思っている。
いずれにせよ、サイエンスコミュニケーターとして超一流と思っているので、私は本書が発売された瞬間に買った。
こういう良書って一回サラッと読んでおくだけでも世界観がガラリと代わったりするので、ぜひオススメ!