ドラクエはゆとりRPG…全滅時にセーブポイントに戻るのは甘えだ!本当のファンタジーはここにある『ダンジョン飯』
※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)
【レビュアー/ミヤザキユウ】
おお ゆうしゃよ! しんでしまうとは なにごとだ!
ドラゴンクエストシリーズをプレイしたことがある方なら一度は目にしたことがある有名なセリフですが、なにか違和感がありませんか?
勇者の人、なんでダンジョンで死んだのに城にいるの?
死んでも蘇生術があるのは剣と魔法の世界の基本ですが、問題は勇者のボディです。
仮に勇者の死体を、死に場所から回収している人がいるとしましょう。すると、その回収者は勇者を殺害するレベルのモンスターの攻撃をかいくぐりながら、動かない肉の塊を抱えてダンジョンを脱出していることになります。
しかも、彼はいつ勇者が死んでもいいように全ての冒険に同行しているのです。
そんなヤツがいるなら「お前が勇者やれや!」と誰もが思うことでしょう。王様は死にまくりの勇者をクビにして、即刻彼のような人材を採用すべきです。
だからそんな役割を担う人は存在しないと考えるほうが自然です。死んだ勇者が城にいるのは不思議な力のなせるわざ。つまり、ドラクエ世界は、リアリティに欠けた嘘っぱちだということです…。
真実を暴いてしまい、大変申し訳ありません。
ドラクエ愛好家の方々は、あの世界がご都合主義で構築されたまがい物だったことに絶望されたでしょう。
でも、安心してください。そんなあなたのMPを全快してくれる“本当の”剣と魔法の世界が他にあります。それが『ダンジョン飯』です。
描かれているのは「ダンジョン」のリアル。
大げさな口上をぶちあげたものの、『ダンジョン飯』は僕ごときに紹介されるまでもない超有名作。
ファンタジーに登場するスライムやバジリスクなどのモンスターたちを、食材にすると一体どうなるのか!? というまさかの切り口で、去年最も話題になった漫画です。
ですが『ダンジョン飯』の素晴らしいポイントはもうひとつあります。 それは…。
ダンジョンに転がる死体、死体、死体。全滅したらセーブしたところに戻って王様に叱られるなんて甘えは一切なく、死んだら死体はダンジョンに放置。このリアリティが描かれているのです。
とはいえ、死んだらそれでおしまいという夢も希望もない設定ではなく、蘇生術は存在します。
それゆえにダンジョンに転がっている死体を地上に持ち帰ることや蘇生させることで、生き返った人から報酬をもらって生計を立てる人の存在まで描写されています。「実際の世界にダンジョンがあったら、こうなるよね」というツボをこれでもかと押さえているのです。
”モンスターを食べる”というキャッチーなコンセプトに目を奪われがちですが、それも含めて「ダンジョンもの」としてのリアリティが徹底されている点も『ダンジョン飯』の素晴らしさなのです。
RPGで言えば「ドラクエ」じゃなくて「ウィザードリィ」。
全滅したらパーティの死体がダンジョンに放置されるため、別のパーティを組んで回収しにいかなければいけないという、あの面倒くさくもリアリティに溢れた世界観。
そんなRPGを愛するあなたなら絶対に読むべき作品です。