漫画で苦手な人続出の”アノ”シーンに見る、アニメ『呪術廻戦』の読者獲得戦略
週刊少年ジャンプで好評連載中の『呪術廻戦』のテレビアニメの放送がスタートしました。
テレビアニメの第1話をご覧になった方は、既にそのクオリティの高さに驚かれたことと思いますが、今回はそのテレビアニメ第1話の演出と漫画原作の違いを解説することによって、本作の魅力を紹介したいと思います。
『呪術廻戦』という作品は週刊少年ジャンプで連載している少年漫画です。が、やや王道とはかけはなれた部分があるのが特徴です。普通の漫画に出て来ないようなキャラクターが多く…いや、ほぼまともな人間が登場しないと言っても過言ではありません。
呪術という言葉がタイトルに使用されている通り『呪い』がテーマとなった学園バトルアクション漫画です。
これはアニメにしたら映えそうです。売れそうです。
本作にはよく「イカれてる」というセリフが出てくるのですが、これも文字通り登場人物の多くがイカれているのです。
それは主人公である虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)だって例外ではないのです。というか、なんならこの主人公の虎杖が一番イカれているのかもしれません。
テレビアニメ第1話における原作漫画との違い
ただの高校生で一般人だった虎杖が、「呪い」を取り巻く闘いに巻き込まれていくことになる重要な第1話において、その主人公自身が「特級呪物」と呼ばれる「両面宿儺の指」を飲み込むシーンがあります。
原作漫画では第1話から早々にそのイカれっぷりを発揮した虎杖。「オレに呪力があればいいんだろ?」とパクっと自分の口に「宿儺の指」を放り込んでしまいます。それこそピーナッツを口に放り込むかのような気軽さでした。
私の周りにいる人たちに「『呪術廻戦』面白いよね」と伝えると、「あー読んだんだけど、ちょっとムリだった」と答えるほとんどの人が、この第1話の虎杖が「宿儺の指」を口に放り込むシーンを挙げます。
「ああいう局面とはいえ、あんなにもカジュアルに危険なアイテム?を自分の口の中に放り込める主人公の気持ちがわからない」
だいたいこういったニュアンスの感想が多いです。
私自身の個人的な意見(感想)としては「いや、それこそが虎杖であり『呪術廻戦』だろう?いいぞもっとやれ」と思っているところなのですが、もちろんみんながみんな同じ感覚や感性ではありません。
ひょっとしたらこのシーンで読者の脱落が発生してしまっているのかもしれません。
しかし、テレビアニメ第1話では異なる演出がなされていました。
多くの人に届けるために選択された演出
「宿儺の指」を所持したまま戦闘に突入した虎杖は呪いの化け物に襲われ(ここまでは漫画原作と同じ)、デカイ手でつかまれて身動きが取れなくなり、化物に全身を丸ごと飲み込まれそうになります。アニメではその後、
両手をつかまれ全く身動き出来ない状態の中、その危機を脱するたった一つの方法として、「宿儺の指」を空中で自分の口の中に放り込むという流れに変更されているのです。
私はこのテレビアニメの第1話を見て驚くのと同時に感心しました。
要するに、「仕方なく口の中に放り込む」という演出に変更されているにも関わらず、それが「虎杖の意志であること」は原作と変わらない、という見事な演出と手法が取られていたのです。
連載開始からこれまで、オススメするたびに多くの人から「ちょっと共感できない・何やってるかわからない」と言われ続けた『呪術廻戦』。ある意味長所でも短所でもある主役のイカレっぷりを大胆に変更することによって、1人でも多くの人に届ける事を選択したアニメ制作チームと朴監督に賛辞を贈ります。
これがテレビアニメを公共の電波で放送するということです。
「アニメ化することで1人でも多くの読者とファンを拡大する」という大きな目標達成のためのプロフェッショナルの仕事を、私はこの第1話で目撃することが出来ました。
現在はテレビだけでなく、配信などによって、より多くの場所でアニメを見ることが出来るようになっています。上記の公式サイトでご確認の上、ぜひアニメと漫画を比べながら見て欲しいなと思います。
東京マンガレビュアーズでここまでアニメの話をするのもどうかと思いましたが、アニメから入って漫画を読む読者が増えるのはむしろセオリーなので、まぁ入り口はどこからでもいいじゃないですか。
ぜひ原作の漫画も読んでください。
高密度の少年漫画かつ、繰り返し何度も読みたくなる内容も相まって、1冊手に入れるだけで、ある意味めっちゃお買い得な作品ですよ!
WRITTEN by 松山 洋
※東京マンガレビュアーズのTwitterはコチラ