#3 報・連・相
「そういえば○○の件って、今どうなってる?
ちゃんと報告して」
私が上司から言われたくないナンバーワンのワードがこれだった。
なぜなら、私の「唯一」の取柄が『報・連・相』だから。
容量が悪くて不器用な私が、他人より完璧にできる仕事が『報連相』。
悲しいかな、いまだに、これしか自慢できるものがない。
だから、「報連相は?」と他人から確認される時は
「お前はそんなこともできないのか」と責められている感じがして…とにかく嫌なのである。
おそらくこの『報連相』にまつわる私のプライドは、私が新卒で勤めたアパレル企業の上司の教えに起因している。
その上司はいわゆる「日体大出身の、体育会系バリキャリウーマン」だった。(私は友人たちと自分の上司の話をするとき、こんな肩書きを添えて話していた。悪口ではない)
後で聞いた話だが、上司はマネージャーから「新入社員(私)を店長に育てたら、東京の店舗に帰っていい」と言われていたらしい。
だから必死に、厳しく私を育ててくれた。
そして上司は仕事をする上で『報連相』が一番大切だと、新人の私に言い続けた。
「接客業なので、顧客様とのやりとりは一言一句漏らさず引継ぎノートに!」
「売り場を変えたら、どんな理由で何時ごろ、どのアイテムに変更したかを明確に!」
「お店のピークタイムや接客した人数も把握しておいて!」
…など、とにかく「報連相は絶対!」と叩き込まれた。
上司が休んで私がお店を任された日は、引継ぎノートが真っ黒になるほど、私は連絡事項を書き記していた。とにかく細かく。
簡単に言うと、店内の1日の様子を監視カメラで録画して、それを文字おこししたような内容だ。
当時私が勤務していたお店は、赤文字系雑誌のファッションブランドを取り扱っていたので、オープンしている間はとにかく忙しい。
なので私は閉店後に『今日1日あったこと』を必死に全部思い出しながら、引継ぎノートを書く羽目になる。
「この引継ぎノートを1回読んだら、全てのことが分かるように」
と上司のために、1時間以上かけて何度も訂正しながら書いた。
…と、ここまで書いていて気付いた。
実は、冒頭の散らかった文章を「当時の上司の愛だったり教訓だったりが、私の中に生きている」…なんてまとめようしたけど、そうじゃないみたい。
新たな発見があった。
私は18歳から38歳まで『書くこと』から離れていたと思っていたが、実は違った。
22歳の新入社員だった私は
「よし、明日は叱られないよう、漏れなく分かりやすく書くぞ!」
と閉店後に1時間以上かけて「執筆」していた。
『相手に届けたい文章を書く』
それが今も生きているから、現在「副業Webライター」と名乗れている。
なーんだ、やっぱり若い頃の苦労は役にたっているじゃないか。
正直、上司がなぜ業務のなかで『報連相』が一番大切だと言い続けたのか、今となってははっきりと理由を憶えていない。(報連相バッチリな会社員にはなれたけど)
とりあえずの結論は「やっぱり上司には感謝しなきゃいけない」しか浮かばなかった。