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みんな違って、みんな大変。だけど、だから。

私の母親は癌だ。
罹患して3年ほど経つが、多分もう治ることはないところまで来た。
抗がん剤の治療中だけど、コロナ禍のため入院すると見舞いに行けないから自宅にいる。そして最近抗がん剤もやめた。
家にいる母のわがままとヒステリーは徐々に増え、家族は確実に疲弊している。
でも、私自身も十数年前に双極性障害になって、自分のしんどさへの理解のない周りに、幾度となくイライラしたから、母の気持ちもわからなくはない。また、私の場合は気持ちを言語化できてはいたから、
聞かれれば自分の状態を割と的確に言葉にすることはできたからマシだった。
それでもやはり、見た目普通の人から、

毎朝死んで夜にかけて蘇るゾンビみたいなものになっていて、
午前中はまさに死んでいる最中で気分は最悪
最短でも午後以降じゃないと、連絡されても返事はできない。

なんて言われても、理解は難しいのだ。

私が病気を寛解させるために一番苦労したのが認知の仕方だった。
鬱や他の心理的障害を発症するきっかけにもなる認知とは、
とても平たく言えば、捉え方のこと。
この捉え方は、例えば、雨が降った時、 

ある人にとっては死ぬほど辛い事だけれど、 ある人にとってはただの自然現象だ。

というように、
同じ状況、環境でも、ある出来事に対しての捉え方によっては出来事自体の事実が持つ意味が、時に真逆と言ってもいいほど変わってしまう、非常に曖昧なものだ。
ちなみに、この例えの場合、当然雨が降るたび死ぬほど辛いのは大問題。
恐らくいずれ心を病むので、それを後者の捉え方に変えていくことになるが、気にしなさすぎもだめ。
だから、良きバランスの落としどころでOKとしよう
という考えに基づく治療法が認知行動療法の基礎みたいなものになる。

このように、人間の五感のどこか、あるいは複数の認知に何らかのトラブルが起こる病がみんな知ってるその名前のまんまの認知症だ。
認知症と聞くと、経験者の凄まじい認知症介護談を耳にしてきたからだろうか、介護疲れで尊属殺人が起こるからだろうか。
なぜか、なんとなくおおっぴろげに話すことをためらう、タブー感とイメージがつきまとう。
実際私も漠然とそんな風に思っていた。
でも、この本を読んで、違うなと思った。
私はとんでもない勘違いをしていた。
それは、私が双極性障害を患っていた時に、あれほど嫌った、周りにされてきた勘違いだった。

本書は、他人の気持ちになって考えて思いやりましょうね
という本。至極当たり前のことを言うが、
その辺の本と決定的に違うのは、その他人が認知症の方で、さらに認知症の人の気持ちを、認知症のその人本人たちから聞いて書かれてあるところ
凡そこの世にある認知症関連の本は、認知症じゃない人が書いた本であるが、なんでなんだろうと考えてみると、多分、
認知症の人からは聞けないと思い込んでいたんじゃないか。
だって認知症だから?
それを、いや、聞けばいいじゃん!で、本当に聞いてみたってのが、まず素晴らしい。
実際は並大抵の大変さではなかったはずだ。
それをコツコツと積み上げていった。
実はこの作業って、口伝や伝承の第一歩と同じで、文化人類学 のフィールドワークにも見られるもの
だから、100人に聞いて回ったという本書のそれは、もはや学問の域だと言ってもいいかもしれない。

次に、それをさすがデザインを手がける著者、非常に見やすく視覚化されたイラストと構成、簡潔にまとめられた文章で、読者をとある国へ旅する旅人にし、暗くなりがちな認知症のイメージをガラッと変えている。
これはただただ天晴だ。

さて、そうやって本書で旅をしていると、その国の人に何が起こっているかが分かってくる。
一見して脈絡がなく、支離滅裂だと思われている認知症の方の言動が理解できてきて、その対処法を考えている自分に気づく。

不思議な国への旅のゴールは、コミュニケーションのスタートラインでもあった。
そうしてまた、彼らとのコミュニケーションの旅が始まる。
この「認知症世界の歩き方」は、本当にガイドブックだった。

同情ではなく共感へ
同一性から共有性へ

わかりあえないことから 講談社現代新書 より

このガイドブックは、もちろん認知症の方々と、
その方達の周りにいる方を助ける本だが、一般の人のためにもある。
私たちひとりひとり、似ている人はいるだろうけれど、
誰一人として、同じものを全く同じように見て、具に捉えている人はいないのだもの。
超おすすめです。

https://www.instagram.com/p/CUFeXFvFu4s/

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