NO.5 シューベルトの音楽と和解した夜
新型コロナウィルスの影響でテレワークに入ったのは今年の2月末だから、今月末には在宅勤務生活も5ヶ月になる。
「緊急事態宣言」だ「東京アラート」だと鐘や太鼓を鳴らすように騒ぎたて、学校まで休校にさせた挙げ句「緊急事態宣言」解除後に感染者数が激増しても政府も都知事も「原因は検査数が増えたから」とまるで他人事のような事を言うばかりで何ら具体的な対応を示さない。
政治的腐敗は極まり、自然災害は続く…
日本沈没も近く、もはや今ここに生きていることが奇跡のように思える程で、怒りと絶望にさいなまれ暗澹たる気持ちに身も心も沈んだまま浮かび上がれそうにないとさえ思っていた。
そんな時、友人がブログに「シューベルトのピアノ・ソナタ13番を聴き希望という言葉を思い出した」という内容の記事を書いているのを読んで僕も久しぶりにその曲が聴きたくなり、夜中に田部京子さんの「シューベルトピアノ作品集成」に収められたピアノ・ソナタ13番を聴き始めた。
今までにも何度か聴いて好きな曲だったけれど昨夜は殊更に心に沁みた。
シューベルトのその優しい音楽は、この長い幽閉生活の中で、渇きひび割れ傷ついた心にそっと寄り添ってくれるようだった。
その音楽は何も主張せず、ただただ優しく美しくそこにある。
励ますことも慰めの言葉をかける訳でもなくただ聴くものをそっと受け入れてくれる。
聴いていると次第に心身のこわばりがほどけ、僕は今ここにいても良いのだという静かな肯定感に満たされていく。
その時僕は(長い間少し怖くて苦手だった)シューベルトの音楽とようやっと和解したように感じた。