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『みみず』から学ぶまちづくり。実践報告。

はじめまして。
私は長野県飯綱町というとことで、株式会社みみずやという会社をやっています。
滝澤宏樹と申します。

https://mimizuya.co.jp

この記事は、我々が取り組む「『みみず』から学ぶまちづくり」について、これまでの実践を踏まえてまとめています。

地域や社会の持続可能性に関心がある方、まちづくりや社会性の高い事業に取り組まれている方の少しでも応援になれば幸いです。

みみずやが取り組む「『みみず』から学ぶまちづくり」

『みみず』のいる場が増えれば社会は良くなる

弊社のミッションは「『みみず』のいる場が増える」です。

読み間違いではありません。
土の中にいる、たまにコンクリートの上に出てくるあいつです。

私たちはそんなみみずの生き様から着想を得て、持続可能な地域社会づくり、まちづくりに取り組んでいます。

活動のキーワードは「環境保全、地域の自治、循環経済」

 みみずは土壌の改善に非常に役立ちます。
彼らが土中を通過することで、土壌が通気性が良くなり、栄養分がより効果的に循環するようになります。
このような役割から、みみずは自然環境の保全に寄与しています。
みみずやは、この自然のサイクルを尊重し、地域の環境を守る取り組みを大切に考えています。

また、みみずは一見何の考えもなしに生きているように見えますが、仲間と協力して生活し、自らの力で生き延びる方法を模索し続けています。
この生き様は、地域住民が自分たちの力で地域の問題に取り組む「地域の自治」に通じる考え方です。
みみずやは、地域住民が自分たちの力で地域を発展させることを目指し、自治を促進するプロジェクトを展開しています。

そして、みみずは土の中の有機物を分解し、土壌の肥沃さを高めることで自然界の循環をサポートしています。これは、循環経済の考え方と共通点があります。
循環経済では、資源の無駄を減らし、持続可能な経済を実現することを目指しています。
みみずやは、地域資源の有効活用や持続可能な取り組みを通じて、循環経済の実現を目指しています。

多岐にわたる活動の中で感じること

現在みみずやは、長野県飯綱町において、地域住民の健康増進や交流を促進するプロジェクトや有給農地活用、空き家活用、地域資源の循環、子どもの環境変化への対応、人材課題の解決、ワーケーションなど、多岐にわたる取り組みを展開しています。

そんな実践の中で分かったこと、感じていることを質問に回答する形式でまとめました。長文となり恐縮ですがお時間許す限りご覧いただけますと幸いです。

まちづくりに関わる上で注力するポイントや価値観を教えてください。


「話を聞く」というスタンス

どこまでいっても、地域に住む人の声を聞くことが一番大切だと思います。

全国的にまちづくりや地方創生といった活動が進んでいますが、うまくいかない理由は意外とこの点を押さえられていないことだったりします。

「話を聞く」仕組みづくり

簡単そうで、意外とできない。
それはなぜかというと、聞く姿勢で待っているだけでは全くだめで、「実際にそう」という状態が必要だからです。

私たちはそれをフィットネスクラブ店舗の運営を通じて実現しようとしています。

よく、フィットネスクラブを運営している理由について、「みみずと関係ないのでは?」と言われますが、この店舗を運営することは非常に大きな価値があると感じています。
我々はもともと飯綱町出身ではなく、たまたまお仕事の機会があり、約5年前から飯綱町で活動を始めたという経緯があります。
その中で飯綱町として廃校を活用した取り組みを進められてきた中で、フィットネスクラブを作るという話が出てきました。

最初はフィットネスのノウハウも集客のノウハウもなく、しかも廃校になるぐらいの人口規模の地域ですので、最初から店舗運営での黒字化が困難だとわかっていました。
しかし、オープンから2年経った現在も町の補助金等で運営するのではなく、廃校活用施設のテナントとして家賃を払いながら事業を進めています。
日々、この場所を継続させるために、どのように捉えていくかを真剣に考えています。

フィットネスクラブを運動の価値だけでなく、交流や相互支援が生まれる場所として設計しました。

コンセプトは”地域の銭湯”です。

そういった場所づくりにより、様々な効果が現れました。例えば、会員同士の交流が自然に生まれ、山登りやマラソンに一緒に参加するような話が出てきました。

私も無理やり参加させられることがあるのですが。笑

というのは冗談で、会員さんから誘っていただき自主的に参加しています。
このような自発的な交流が生まれることで、自然発生的な活性化が起こっていると感じています。

自分たちの可能性を自分たちで決めない

店舗運営でもう一つのメリットとして感じるのは、実際に農業や他の事業において展開があることです。
例えば、地域の農家さんや農業委員会の方が、我々のフィットネスクラブを運動する場所として利用していただいています。
その中で、若いスタッフが可愛がられ、畑をやっている話になると、「じゃあ、今度うちの畑見に来てくれ」という話になります。
そこから、畑やトラクターの問題について相談されることがあるのです。

結果として、我々が買ったり営業したりしなくても、畑を借りたり、トラクターなどの高額な機械を無償で貸していただいたりできます。
これにより、フィットネス店舗だけでは赤字かもしれませんが、全体で見るとコストが下がり、事業として成り立っていくことができます。

重要なポイントは、自分たちの可能性を狭めず、新たなつながりを生んでいくことです。

昔の百姓は、100の仕事ができないと生きていけなかったわけですが、田舎で住んでいる人は、本当に様々なことに目を向けて、可能性を狭めないことが大事だと思います。

多くのメンバーが株式会社みみずやに関わっています。
働き方や関心事は非常に多岐にわたっているんです。
例えば、フィットネスで働いている方々の中には、もちろんフィットネスの専門家やトレーナーがいますが、一方で身体のこととして少し大きく捉えた中で、作業療法士の方がいたり、子ども向けの運動プログラムを担当している方がフィットネスで働いていたりと、フィットネスだからといってトレーナーだけではなく、専門性と多様性を許容しながら進めています。

犠牲を出さない

私がスタッフとよく話すのは、とにかくやりたいことをやろうということです。

我々の会社でやるかやらないかの基準は、売上や利益が出るかということももちろん重要な要素ですが、全てではありません。
むしろ、地域が昨日より今日、今日より明日と良くなっていくかどうかが、私たちが最も価値を見出している部分です。
スタッフ自体も地域の住民なので、自分らしく輝ける職場を作ることが非常に重要です。

また、私たちが進めていく上で、犠牲を出さずに取り組むことが大事だと考えています。

例えばフィットネスクラブでは、24時間無人営業の方が利益は上がりやすいかもしれませんが、私たちが大切にしているのは人がいて交流できることです。そのため、スタッフが常にいる状態にしています。

つまり、営業時間を長くすることは労働時間が長くなることと同義です。
現在、平日は夜10時まで営業していますが、夜遅くまで働くことは身体的にも負担がかかることです。
様々な仕事をしている方が関わっているので、その点も考慮しなければいけません。そこで、我々は休日や営業時間、プランの作り方など、仕組みを柔軟に考えています。
もしスタッフが体調を崩してしまったら、営業すらできなくなってしまいます。
それは持続可能ではないと捉えているので、バランスを考慮しながら進めていきます。

組み合わせで良くなる

このように、さまざまな要素が組み合わさって「持続可能性」が生まれるわけですので、利益が上がっているからといって持続可能だとは言えません。
地域で働いてくれる人も限られているし、関わる思いや価値観も大切にしながら進めていくことが重要です。
そのような視点を大切にして、持続可能な取り組みを進めていくことが私たちの目指す方向です。

地域住民の意見やニーズをどのように取り入れていますか?


自分たちも住民であること

まず、我々は地域住民の一人であるという点が大きなポイントだと考えています。地域に住んでいる一人として、肌で感じる地域課題や困りごとを仕事につなげているのが一つの要素です。

近い距離で事業をおこなうこと

また、店舗を持っていることも重要です。
毎日地域の人が立ち寄ってくれるので、雑談をしたりする中で、イベントやサービスのリクエストやフィードバックがすぐに感じられます。
事業に対しても、意見や改善案などが直接聞けるという点で、近い距離で感じ取ることができます。

もちろん、すべて住民の方の意見を聞くことは難しいですが、少なくとも、関わっている方々の意見を基に事業を作っていくというスタンスです。

柔軟に構える

また、様々な人や意見があり、見えない価値観もたくさん存在しているため、我々が正解だというスタンスにならず、柔軟に構えることが重要です。
「こういう考え方もありだよね」「違うやり方もあるよね」というように、常に柔軟な考え方で事業を進めていくことが重要なポイントだと考えています。

どのような課題に直面することがありますか?


仕組みや文化の停滞

課題はたくさんあります。

特に大きな課題として感じるのは、地域の仕組みや文化が更新されていかないことです。
地域特有の仕組み、例えば公民館や消防などは、これまでの地域の持続可能性を支える活動で、一昔前の人口規模や年齢層の分布、社会状況に基づいて作られた仕組みです。
しかし、現代では人口が減り、高齢化が進み、若者が少なくなっています。それにもかかわらず、その仕組みが更新されていきません。

例えば、10年後や20年後の人口はある程度想定でき、数軒しか残らない集落も明らかになっています。
そのような集落のインフラ、道路、水道、電気、インターネット、農業用水路や草刈り、森林の保護などを将来的にどうするのか、考える必要があります。
行政の機能として、現状は維持していますが、今後10年や20年を考えると、道路の補修や維持をすべきかという問題が人権問題とも関わってきます。
これは非常に難しくナイーブな問題です。

寛容で創造的な対話の場が少ない

地域には、こういった重大な問題が発生しているにもかかわらず、議論や話し合いをする場が少なく、場があっても既得権益や従来のやり方が優先され、創造的な対話が生まれにくい状況です。
またその背景には、年齢が高いほど発言権は強いなど、年功序列の影響も見られます。
10年後や20年後を描く世代が議論の場に参加すらしていないことが、地域の事業を進める上で非常に大きな課題となっています。

地域の発展や活性化のためには、多世代が関わる場の創出や新たな取り組みが必要です。

どのような協力関係を築いていますか?


行政とも仲良く

少し具体的な話をします。

まず、行政とのつながりは、まちづくりをする上で大きなポイントになると思います。
我々のみみずやの事業の中には、飯綱町と協働する事業もあります。例えば、町の健康教室やヨガ教室、子供向けのイベント、有機給食のプロジェクトなどです。
これらの事業は、町の業務委託として我々が受けています。
そのため、担当課の方とは二人三脚で情報交換や社会的な意義の確認を行いながら事業を進めています。

「地域全体で取り組む事業」という意識

また、地域のプレイヤーとの関係作りも重要です。
みみずやの業態として、実は社員は数名しかいません。関わってくれる方々は、基本的に他社や個人事業主として活動されている方々がほとんどです。
みみずやだけ主体ではなく、個人事業主の方が抱える課題感や目指す地域の姿が、たまたま合致して事業のコラボレーションが生まれています。

つまり、みみずやの事業という言い方もありますが、基本的には地域全体で取り組んでいる事業と捉えていただくと良いと思います。

地域外の人とも共感する

さらに、地域外の方々との繋がりも自然と発生しています。
積極的に取り組んでいるわけではありませんが、全国にいる同じような境遇を抱える方々との情報交換や、研修会や対話の場、旅先で出会ったりします。
その方が、飯綱町を訪ねてきてくれたり、事例の情報交換のきっかけになることがあります。

また、余談ですが地域外の方との共感という点において、「みみず」というコンセプトや世界観は、非常に役立っています

得意とする分野や技術はありますか?


染み付いて離れない「理系」的価値観

もともと代表の中條と私、滝澤というメンバーで立ち上げた会社で、二人とも工学系の勉強をしていました。
特に中條は前職でエンジニアをしていた経験があります。
そのため、事業作りにおいても、「みみず」とかハートウォーミングな感じではなく、実はクールでロジカルな考え方が得意だと認識しています。

多様性を許容する事業づくり

一方で、専門性にとらわれず、あらゆる分野でのつながりを描くことがが重要だと考えています。
例えば、行政や企業の部署をまたいだ連携など、様々な業種や価値観、考え方を横断的につなげることが得意です。
この多様性を許容する事業の器づくりが強みになると感じています。

例えば、給食のプロジェクトを考えるときなど、農家さんや給食を作る人だけでなく、機械屋さんや学生、マッサージ屋さんなど様々な方向から意見やノウハウを出し合うことで、これまで見えてこなかった解決策が見えてくることがあります。

この世界観を活かし、地域内での産業連携(6次産業化)を描くことも主な生業としています。

まちづくりの成果や効果について、どのような指標を設けていますか?


「自分の町はいい町だ!」と実感することが一番の指標

私が飯綱町に関わらせていただく時、最初は住んでいなかったのですが、事業を進める中で自分が住みたい町の仕組みを作ることがモチベーションになっていました。
人間はやはり自分の生活や命に関わる問題を考えるときに創造性が発揮されます。だからこそ、外の人間がいくら良いアイデアを持っていても、地元で育った人や長く住んでいる人には及ばないと思います。ですので、その人たちがどう実感しているかが分かりやすい指標になると思っています。

ただ、これだけでは「まちづくりの効果をアピールできないじゃないか」と言われてしまいます。
そういった時には、ソーシャルインパクト評価という社会的効果や事業に対する評価の手法を採用することもあります。

数値目標は本質から外れないように

そういった観点から事業ごとに目標数字や定性的な指標を設定することもありますが、とらわれすぎは注意が必要です。

まちづくりの本質から外れてしまうこともあります。

例えば、我々が運営するフィットネスクラブは利用率や売上や利益といった数値を目標とするだけでは、地域の中での役割や事業の本質から外れてしまうことがあります。
関わる人がその店舗の経緯や歴史を深く理解しているだけ人であれば問題ないですが、新しいスタッフ、新しいお客様、次の世代に受け継がれていく時には、しっかりとした文化が受け継がれていかなければ持続可能な形にはならないと思います。

だからこそ、指標や評価は使うところを間違えないよう、慎重に考えることを心がけています。

今後のまちづくりの展望や計画について教えてください。


"未来はわからない"ことを前提に進める

今後の展望については、まだ分からないというのが正直なところです。

まちづくりというのは、「命と向き合うこと」だと思っています。
命がある程度続いていくことは見えているものの、どこで終わるかやどんなことが起きるかは基本的に分からないのです。
この「わからないこと」を前提として計画を立てなければいけません。

先ほどの評価の話とも結びつきますが、会社の都合や自分たちだけの都合で指標を立ててしまうと、計画も自己都合になってしまいます。

まちづくりが命と向き合うことと同義であると考えたとき、例えば子育てをする時に親の自己都合の計画を立てることは、子供の成長と向き合うことの本質とは少し外れると思います。

同様に、地域の未来について計画を立てることは素晴らしいですが、基本的には「未来はわからない」ことを前提で進めなければいけません。そうしないと、自己都合に引っ張られてしまい、本質から外れることが起こると思います。

計画はあまり具体的に描かない

ですので、まちづくりに関する展望や計画については、我々の場合はあまり明確にしていないです。
抽象的な方向性の共有はありますが、基本的には目の前の地域課題に向き合い、その場で考えて行動することが大切だと思っています。
それが地域が持続可能になっていく形の1つでもあると考えているので、具体的な計画を描かないことの方が多いと思います。

まちづくり分野での独自の強みや特色は何だと考えていますか?


みみずの生き様から地域社会を考える

自然から学ぶということ、みみずの生き様からヒントを得てまちづくりに活かそうという姿勢は、世界的に見ても珍風景だと思います。
また、株式会社という基本的には営利を目的とした仕組みの中でこの考え方を取り入れるのは、どんな結果が待っているのか未知数でしかありません。

一方で、「人間界の常識や仕組みが自然界では非常識である」ということも私たちは事実として受け入れなければなりません。

人間社会では利益を追求するため、必要ないものは捨てるという考え方が一般的です。

自然界には"不要なもの"が存在しない

これに対して自然界では、みみずの糞が植物にとって豊かな栄養素となるように、循環が常に行われており、ゴミや廃棄物といった概念は存在しません。

ここに、現在の社会問題を一つずつ解決していくヒントがあると考えています。
具体的には、廃棄物はある事業や人という一つの単位にとっては不要かもしれませんが、必ずどこかに価値を見出すことができるということです。
売り上げになるとか、お金になるという意味ではなく、それを必要としている命が必ず存在していることを考慮すべきだと思っています。
逆に、それが描けない本当の”廃棄物”があるならば、そういったシステムを見直すという価値観を持つべきだと思います。

そうした観点で周りを見渡すと、多くのものがまだ自然と調和していないと感じますが、これを一つずつ改善していくことが大切だと思っています。
自分がゴミだと思うものや廃棄物だと思うものが、誰かにとって(人だけでなく植物や動物も含めて)価値があるかもしれません。
地球規模で他の命のことを思い浮かべ、物事を見直す姿勢が大切だと考えています。

これまでの価値観にとらわれず、今を観察する

現代の資本主義の中では、自分たちにとって利益にならないものは、不要であり、廃棄物であるという価値観が強く根付いています。
このような社会の常識に従って何も考えず、今までのやり方を続けるだけでは、問題は解決に向かいません。
今まで信じてきたことや経験だけに答えがあるわけではなく、特に今の社会問題とされている事象に関しては、自然の中に答えがあると私は思っています。

なので、みみずに関心を持ってもらうことで、少しでも自然の営みに目を向けてもらうことが私たちの使命感や役割だと思っています。

引き続き、みみず、みみずとの言い続けたいと思います。

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