あの時、彼は「孤独になれ」と言っていた
大学時代、私が在学していた学科の学科長は少し変わった人でした。
私は片田舎に生まれ、のんびりとその地で育ちました。田舎好きな私としては、大学進学と共に東京に出るという頭はなく、そのまま地元の大学に進学したのです。
その進学先の大学の学科長が、なんだか風変わりでした。他の学科の学科長はそんなことないのに、我が学科長はなんだか皮肉屋だとずっと思っていました。
そんな学科長にはいくつか口癖がありました。中でも印象的だった言葉。
「人とつるんでばっかりいないで一人になりなさい。孤独を感じなさい。」
当時二十歳そこそこの学生だった私には、この言葉の意味も必要性も全く理解できませんでした。
今まではだいたい大人から、「この二度と戻ってこない大学生活を悔いのないよう、青春を謳歌してください。」的なことを言われてきたので。学科長の言葉の真意なんて分からなかったし、汲み取ろうともしませんでした。
あぁ、やっぱり変わってるんだな。ひねくれてるんだ。単純に彼が一人でいることを好きなだけなんだ。
私にとってはその程度の話だったんです。(本当に失礼)
変わらず私は友人と遊び、バイトに出かけ、家に帰れば家族と食事する。一人になることなんてほとんどなく、学科長の言葉はときどき友人との話題にあがる程度。孤独を知らずに大学生活を終えました。
あれから十年以上経った今。いや、もっと早い段階だったかもしれません。
私は本当の意味で孤独を理解しつつあることに気づきます。
孤独というのは、自分を正しく理解するためのツールです。
誰かと一緒にいる時間、それは楽しく充実した時間でしょう。しかし、誰かが隣にいることで意識は誰かに向いていく。楽しい気持ちが蓋をして、他のあらゆる感情や感性が見えなくなってしまうことがあるのです。
孤独は、自分を誰とも比べることなく、自分だけに意識を集中させ、自分という人間をとことん理解することを叶えてくれるのだと思います。
今となっては、学科長はきっとそういうことを伝えたかったのではないかと考えるのです。
あのとき、二十歳そこそこの私が彼の言葉の真意を汲み取ろうとしていれば、もっと違う未来が待っていたのでしょうか?
それでも私は今この瞬間、人と過ごす時間の愛おしさも、孤独に過ごす時間の尊さも、ほんの少し理解できてきたように思います。
いかがでしょうか?学科長。