「スピーダ」リブランディングの軌跡
こんにちは。株式会社ユーザベースでデザイナーをしている伊藤です。
2024年7月1日より、弊社が展開していたSPEEDA・INITIAL・FORCASなどの国内SaaSプロダクトを「スピーダ」にリブランディングしました。
遅ればせながら今回のnoteでは、そのリブランディングの裏側をデザイナー視点で紹介できればと思います。
普段からブランドに携わっている方、リブランディングを検討している方の参考になれば幸いです。
リブランディングの背景
ユーザベースはBtoB SaaS事業において、これまでSPEEDA、FORCAS、INITIALを中心に、プロダクトごとにサービスを提供していました。
しかし大企業を中心に、複数のプロダクトを導入して部門横断的な取り組みに貢献する事例が増えてきたことから、顧客課題をひとつのプロダクトで解決するのではなく、複数のプロダクトを用いて包括的ソリューションとして価値提供したいと考えるようになりました。
その結果、各プロダクトを一つのブランドへと統一していくためのリブランディングプロジェクトが始動しました。
ブランドの名称
統一されたブランドとしての名称は、検索ボリュームで最も多かった「SPEEDA」を選択し、かつカタカナにした「スピーダ」とすることに決定しました。
さらに以前は別々だった、「SPEEDA」「FORCAS」「INITIAL」といった各プロダクトを、「スピーダ」を認知記号に据えた「認知記号+顧客便益(=「スピーダ+〇〇〇)」という名称ルールで統一しました。
※名称に関してのより詳しい説明については、以下の記事にも記載してありますので、ご覧いただけると幸いです。
スピーダらしさについて
今回のリブランディングで反響が多くあったのは、以前の「SPEEDA」「FORCAS」「INITIAL」からの大胆なイメージチェンジではないでしょうか。
以前のブランドはBtoB SaaSらしからぬ、クールでカッコいい世界観を意識して、一貫したデザインをしてきましたが、今回のリブランディングでは、ロゴをはじめブランドのトーン&マナーをがらりと変えました。
というのも過去の事例やN1インタビューなどを改めて読んで、これまでのブランドはどのように顧客から見られてきたのかを読み解いていきました。
そうすると従来のビジュアルイメージでは表現しきれていなかった、「親しみやすさ、人間らしさ、対話的、協調的」「誠実さ、真摯さ、直向きさ、エンパワー」といった方向のワードが多く上がっていました。
そこで、従来の先進的でエッジの効いたコミュニケーションではなく、こういった本来のスピーダに備わっていたキーワードをより感じやすくするため、そして、より分かりやすく、軽やかで、親しみやすいコミュニケーションをするために、ブランドの世界観を変更することにしました。
名称だけでなくロゴもカタカナに
今回のリブランディングのポイントは名称をカタカナの「スピーダ」にすることに合わせて、ロゴもカタカナにすることでした。
理由はいくつかありますが、
以前より「SPEEDA」を読み間違えられるという課題があったこと
アルファベットは日本人にとっては認知負荷が高いこと
名称とロゴの表記が統一されていた方が認知負荷が低いこと
アルファベットよりもカタカナの方が検索しやすいこと
などを考慮して、より読み間違いもなく、分かりやすい「カタカナのロゴ」へと舵を切りました。
ただ、心の中ではデザイナーとしての矜持がどこかで邪魔をして、ロゴをカタカナにすることに当初は反対していました。
デザイナーとしての矜持、それは「かっこいいものをデザインしたい」という一言に尽きます。これまでかっこいいものをデザインすることが自分のデザイナーとしての欲求を満たしてくれる、かっこいいブランドをデザインしているデザイナーでありたい自分、デザインしたものを「かっこいいね」と言われると喜んでいる自分。そういった考えが根底にあったからです。
自身のデザイナーとしての感覚的にも、どうしても「アルファベットのロゴ」の方が視覚的に洗練されて見えるため、「カタカナのロゴ」よりも、英語のロゴの方が「カッコいい」と感じてしまいます。
しかし、今回のリブランディングにとって大事なのは「カッコよさ」ではありません。顧客にとっての「わかりやすさ」なのです。
誰のために今回リブランディングをするのか。我々は顧客起点の組織であり、顧客起点のプロダクトである。そのようなプロジェクトの目的に立ち返り、デザイナーとしてのエゴと戦いながらも、プロジェクトを進めてきました。
記憶に残るロゴへ
今回、ロゴをデザインする際に最も重要視していたのは「記憶性」です。
ロゴの記憶性が高いとどんな効果があるのでしょうか?
それは簡単に言うと、ユーザーがスピーダのことを覚える時に覚えやすくなり、スピーダのことを思い出す時に思い出しやすくなります。
スピーダについて何かしらユーザーが認知した時、その時に認知するものはユーザーのシーンによって様々だと思います。スピーダの広告やWebサイトを見た時の情報や提供価値、商談時にセールスの方から聞いた話やその場の体験など何かしらの認知情報があるとは思いますが、その側に「ロゴ」は絶対存在します。認知情報はロゴとセットで記憶されます。
つまりサービスとして何かしらの「顔(=ロゴ)」を持っていないと、認知情報と認知対象(=ブランド)が結び付かなくなる可能性があるのです。
極端な例ですが、あのスマホ素敵だなーと思っても、ロゴがなかったらそれがiPhoneだったのかGoogle Pixel だったのか、わかりづらいですよね。ロゴがあることで記憶のスイッチがひとつ増えることになります。
大量の情報を摂取する時代に「こないだ見たあのブランド、あれってなんだったけ?う〜ん…まぁいいか…」とならないようにするためには、何者かを印象付けることがロゴには求められているのです。
スピーダのロゴを様々なシーンで見たときにしっかりと印象に残ること。それをロゴに求める条件としました。
では、人が記憶する仕組みはどうなっているのでしょうか。
脳が記憶するには「記銘・保持・想起」という3つの段階があります。ここで意識したのは最初の「記銘=覚えること」と最後の「想起=思い出すこと」です。
まず「記銘」されるためにはそもそも対象を「認知」されることが必要なため、「視覚的な強さ」が重要になってきます。また記銘しやすく、想起しやすいものは「シンプル」なものです。
人間の脳は見たものを正確に記憶することはできません。どれだけ注意深くロゴを見たとしても、人が記憶する過程で、やがてそのロゴは抽象化されてあやふやになっていきます。複雑なロゴなら尚更です。そのため、人の記憶という抽象化が起こりやすい環境の中でも覚えられて、思い出しやすい仕組みが記憶させるためには必要なのです。
以上の脳の記憶の仕組みを考察して、ロゴの記憶性を高めるには、
視覚的な強さがあること
シンプルであること
以上の2つが今回のロゴの最重要ポイントとして定義づけて、デザインしていきました。
シンボルのないロゴをどうデザインするのか
今回のロゴのポイントは「情緒的なコンセプトは一旦考えないこと」だったと思います。もちろんこれは最初から考えたアプローチではなく、プロジェクトを進める中でシフトしていった考え方です。
繰り返しますが、今回のロゴで重要視していたことは「記憶性」です。そのために情緒性よりも機能性を重視しました。
もちろん、当初はスピーダのコンセプトや思いや情緒的価値などを「シンボル」に込めてロゴにする方向を考えていました。
なぜならシンボルがある方が、
・独自性のあるコンセプトをシンボルの造形に落とし込みやすい
・さまざまなシーンでシンボルだけでもアイコン的に使いやすそう
・シンボルがあることで記憶のきっかけに作用しそう
などといったメリットがあるからと考えていたからです。
しかし、ロゴ案をいくつも出しながら、代表の佐久間と対話をする中で、シンボルは不要なのではないかという結論に辿り着きました。
なぜなら記憶のきっかけになると思っていたシンボルは、「スピーダ」という名称を覚えてもらう上で、「シンボル」という追加情報を与えてしまい、結果として認知負荷を与えてしまうデメリットもあると感じるようになりました。
そのため今回はシンボルは設定せずに、ロゴタイプ(文字)をベースとしたパターンで検討した方がいいのではないかと方向性を絞りました。
その上で、ロゴをデザインする際に重要視していたポイントの「視覚的な強さがあること」「シンプルであること」を実現するロゴは何かを模索した結果、「塗りの面積を大きくとる」という結論に辿り着きました。
シンボルがないといっても、ロゴタイプだけだと、視覚的なインパクトが弱く、他のブランドのロゴと比べると印象が弱くなってしまいます。
そのため「スピーダ」という文字の背景に塗り面積を多く取りれた矩形を敷くことで、視覚的なインパクトを出すようにしました。
この基本的な形状ができたということは、ロゴが「記憶に残る」上での機能的な条件が満たされたということになります。その上で、スピーダの情緒的価値を感じるように、ディテールで「らしさ」を付け加えていきました。
また、今回のリブランディングと並行して、スピーダのミッション「経営のスピードを上げる」も決定しました。
ロゴでは、その「スピード」を感じさせるために、斜めの台形という形状を取り入れました。また、四方の角丸で「親しみやすさ」、カタカナの太さや色などで「前向きさ、エンパワー」といった強さも表現し、スピーダらしさを感じるような調整をしていくことで、ロゴを完成させました。
ブランドカラーの設定
皆さんも初対面の人と待ち合わせする時、着てる服の色を伝えることありませんか?それくらい色は印象や特徴づけに機能します。
つまり今回のリブランディングで重視していた「記憶性」にも色は貢献します。記憶する条件として人はかなりの部分を色に頼っています。Salesforceの青、Adobeの赤、スターバックスの緑、どれもそのブランドを想像する時、頭の片隅にその色がよぎりますよね?
従来の「SPEEDA」「FORCAS」「INITIAL」のロゴは全てモノクロで統一していました。モノクロにしている場合は、色による視覚的な強さや記憶の効果を最大化しづらくなってしまいます。そのため今回は、モノクロという無彩色ではなく、有彩色を設定して、ロゴやブランドのイメージを形成する手法を選択しました。
色もまずはロゴをしっかりと機能させる視点で選びました。それは目に飛び込んでくる視覚的な強さです。人間の目に最も早く伝わる色、それが「赤」です。
このことは経験則としても分かると思いますが、人間の目の仕組みも関係しています。人が色を認識するのは、可視光線の波長の長さが関係しています。波長が長ければ認識しやすくなり、短ければ認識しにくくなります。この波長が長い色が「赤」なのです。
この機能的な条件としても赤を選びつつ、情緒的なイメージの条件としてもスピーダらしさとマッチするため、ブランドカラーを赤に設定しました。
最後に
以上のような検討を重ねて新しい「スピーダ」を無事リリースすることができました!
実際にプロジェクトを進めていくと、教科書通りのプロセスとはいかず、リサーチしてはプロトタイプをつくることを繰り返したり、言語化と視覚化を行ったり来たりしたり、コアのアセットが固まり切っていない状態でも他のアセットやツールを検討したりと、かなりアジャイルで進めていたと思います。
スピーダのブランディングは始まったばかり、まだまだこれからです。今後もブランドアセットを充実させながら、スピーダらしさを醸成し、より強固なブランドにしていくために奮闘していきたいと思います。
最後になりますが、今回のリブランディングを伝えるためのコンセプトムービーも制作しましたので、ぜひご覧いただけると嬉しいです!音楽もオリジナルでこだわりました!
また、本noteを皮切りに、今後もスピーダのリブランディングに関するデザイナーの記事を公開していく予定ですので、お楽しみにしてください!