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小説の読み方が変わるーー阿部公彦『名作をいじる』(立東舎、2017年)
阿部公彦さんの『名作をいじる』が面白過ぎた。
この本読んだら、小説の読み方が確実に変わる。ひいては本の読み方そのものも変わる(かも)。
なんとくなく、「本」という体裁になっているだけで、ちゃんと読まないといけないと思いませんか?
少なくとも私はそう。でも、それが本との心理的な距離を作ってしまっている。名作になるとなおさら。
そこで阿部さんは「いじる」という方法を提案する。
簡単に言い換えると、ちょっとした違和感に気づき、それを簡単な言葉にするということ。それだけで本との距離がグッと近くなる。
でも東大の先生が書いた本だしな、、、と思いながら読むと、本当に「いじっている」んですね、これが笑。
例えば、漱石の『明暗』の冒頭で「面倒くさそうな男!」とか書き込まれていたり、志賀直哉『城の崎にて』では「な〜んか、いちいち、えらそうだよね。」と書かれていたり笑(本書では、阿部さんの書き込みも印刷されていて、それが実際に読めるのもポイント)。
本当にちょっとした違和感とか気づきが書き込まれていて、それを見ているだけで面白いんですが、その先がすごい。
そのちょっとした違和感の背景を探り、一見すると見えてこないその小説の別の相貌を描き出す手つきは、本当にスリリング。これは様々な小説に通暁した文学研究者だからできる芸当かもしれません。しかし、きっかけは本当にちょっとした違和感なんだなということが分かります。
阿部さんは、「小説を読むというのは、ほうとうは「お話」よりも雑音にさらされる経験なのです」(202頁)と書いています。
ともすると、伏線の回収や大どんでん返しなど、ストーリーにばかり目がいきがちですが、それは小説の一部でしかない。それには収まらない、ある種の「過剰さ」にこそ小説の面白さがある。それを楽しむには、違和感を細かくキャッチする必要がある。
それを阿部さんは「いじる」と表現しているわけです。これは「バカにする」という意味ではもちろんなくて、その違和感をキャッチし、名作と言われるものと等身大に接するための技法なんですね。
「いじる」という表現で、気づきのハードルを下げる。そしてその気づきの背景を探っていく。そういうプロセスから本当に豊かな小説体験が生まれるのだなと発見がありました。
本をより深く読みたいと考えている人にはとてもオススメです。
それにしても『名作をいじる』というのは、卓抜なタイトルですね笑。