末端ワーク 伸びる&捻る
末端から動く。末端から伸びる。末端から引かれるように。
末端からねじれる。末端で生じたねじりの運動が全身に波及するのを丁寧に味わう。
ミカエルがインターナルワークとか言い出した時に、提示したのが末端ワークだった。
このときは何かミカエルが大事な大転換をしそうだったので、9月の国際セミナーに参加してその2ヶ月後に再度、モスクワに行く予定を立てた。9月の国際セミナーでは末端ワークについて学び、二ヶ月後のモスクワではその続きを学んだ。お蔭で末端ワークの重要性と可能性についてずいぶん掘り下げることができたし、この時を境に個人的には体の動きについての理解がかなり進んだ。
ミカエルが末端ワークについてこう説明していた。
「私達の体を緊張させてしまう最たる原因は、自分の体を動かすことだ。だから緊張を作るのではなく、緊張を出しながら動く方法を身に着けなければならない。それが、この動きだ」
「末端から生じた緊張が過程をパスすることなく、全身に伝わるのを感じるように」
ここで注意したいのは、「テンション(緊張)」という言葉が2つの意味で用いられているということである。
前者の発言における緊張は「こわばり」と意訳できる。体を拘束し、動きを妨げるものという意味になる。
後者の発言における緊張は「張力」と意訳できる。体のパーツとパーツを繋ぎ、全身を連動させるものという意味になる。
このどちらも「テンション」と捉え、「テンションとは取り除くべき悪しきもの」という前提で解釈すると混乱することになる。だから言葉の取扱にはくれぐれも注意が必要だ。
末端ワークのポイントは、とにかく厳密に、厳密に、末端から全身に力が伝わるプロセスを追うこと。ミカエルがそうやれと言ったからそうやっているだけなのだけど、実際にそうすると体の連動性がみるみる上がるのだ。
だからクラスでもしばしば練習するのだけど、なかなか難しい。
「張力が伝わる過程をパスしない」
「末端から動く」
このたった2つのあまりにシンプルな要求を守れないのだ。
末端ワークに関してのポイントは本当にこれだけ。これをひたすらバカ丁寧にやるだけ。それも徹底的にバカ丁寧に。ここでいうバカ丁寧とは、「末端で生じた動きが全身に波及するプロセスを、途中で飛ばしたりつけたりすることなく、味わう」ということを本当に言葉通りにやるだけである。
呼吸についても深く考えなくていい。力んでしまって動きが詰まったら、フーっと息を吐くと動きが伸びることがあるくらい。モスクワでも呼吸についてはたいした言及はなかった。
動きについては「体幹の大きな筋肉で生じた力が末端へと伝わる」という説が一般的だったりする。要はムチの原理だ。スポーツなら野球のピッチングやテニスのスマッシュなど無数に挙げられるし、武術なら丹田系の動きがここに分類されるかも知れない。ただムチの原理についてはいくつかの難点がある。それは動きの発生から末端に伝わるまでタイムラグがあるということだ。このタイムラグが気配となり、相手に動きを読まれてしまう。そういう理由で甲野善紀先生ら武術の諸先生方はタメやウネリをなくすことの重要性を説いてきた。
これは武術的な観点から指摘されたムチの動きの難点なのだけど、実はもう少し普遍的な意味で致命的な欠陥がある。それは末端の精度が著しく低い、ということだ。ムチの先に筆をくくりつけて字が書けるだろうか。かなり難しいであろうことは想像に難くない。できたとしてもヘナヘナでヨレヨレの下手字にしかならないだろう。
ただムチの動きが全く無用なわけではない。むしろ「大きな力が出せる」という利点がある。これは根本から末端へと伝わる力の流れが体を連動させるという効果によるものだ。この側面がシステマトレーニングとして取り入れられたのが、「ウェーブ(波)」の原理だと言える。
「ウェーブの原理」はヴラディミアがDVD「Hand to Hand」で紹介している。なかなか充実した内容ということもあって、初めて日本語化されたDVDでもある。その中でヴラディミアは数々のウェーブの使い方を披露しているのだけど、実際に練習してみると体を連動させる効果が非常に高いし、初心者にもわかりやすい。
だからシステマ東京のクラスでもたまに取り上げて練習しているのだけど、近年のシステマではあまり聞かれない。
その理由の一つとして、外見上くねくねと動いてみえる動きが「システマらしい動き」であるという間違った認識が広がってしまったから、ということが考えられる。YouTubeでシステマの研究をし尽くしたという人が僕のクラスに来て、「あなたの動きはシステマらしくない」と言い放ったことがある。その人はもっと僕にくねくねしてもらいたかったのだろう。
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