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引き続き翻訳者として指摘します(1) #オザケン #ozkn @iamozawakenji さんへ #人種主義or人種差別
[Last Updated: 2020/8/3]
はじめに
ミュージシャンの小沢健二さん(敬意を込め本稿では『オザケン』さんと呼びます)の下記ツイートに対して、翻訳者としての義憤から連投し、たいへん多くの反響をいただいたツイートですが、いまいちど、その内容を再整理した上で引き続き、翻訳者として本件の問題を提起し続けたいと思います。
Racismの訳語は「人種差別」ではなく「人種主義」です。Capitalismを「資本差別」ではなく「資本主義」と訳すのと同じ。
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) June 1, 2020
Ism(主義)は、社会生活の全てに影響します。
今の米国の暴動を見て関心を持ったら、Structural Racism(システムとしての人種主義)を学ぼう。グローバル化の必須科目です。 pic.twitter.com/3qcAcKBzww
1.「指摘」スレッドについて
この「指摘」スレッドの意図は、多くの方がコメントされているようにオザケンさんの英語力を疑問視した上でそこを突くものではなく、彼自身が重視する『解説』のアプローチについて異議を唱えるものでした。また、オザケンさん自身のBLM(#BlackLivesMatter)運動の認識に問題があるとも考えていません。前述したように、オザケンさん自身の『解説』が訳語、背景の説明も含め、「拙い」のではないかということであり、これに英英辞書における定義、定訳の説明等の解説を交えて「補足」した積もりです。実際、BLMの背景にある構造的差別に対する理解はほぼ同じのように思えます。
USの辞書Merriam-Websterが、Racismの定義を変更する。現状「人種主義に基づく政治的&社会的システム」とある定義を更に深め、今のBlack Lives Matterな英語に準ずるそう。一方Racismを人種差別と訳してきた日本の体裁と、人種主義という平明な直訳を必死で避ける習癖。でも言葉って、解説なのです。 https://t.co/6rxUZPR7yT
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) June 15, 2020
私がまず翻訳者として義憤を感じたのはcapitalismの解説のくだりでした。
Racismの訳語は「人種差別」ではなく「人種主義」です。Capitalismを「資本差別」ではなく「資本主義」と訳すのと同じ。
そんな安直な説明あるかと、率直に憤りが隠せませんでした。
「翻訳者がどれだけ細心の注意を払ってこういう社会的にセンシティブな用語の翻訳行ってると思っているんだ。ふざけんな💢」の気持ちをかぎりなく理性的に表してみました。ご笑覧ください。 https://t.co/lpqmGhVUdN
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 27, 2020
次に、Google訳を出していたことに憤ったのは、訳が間違っているからではなく(表記がおかしいのは十分承知ですが問題はそこではない)、重大な問題提起をするのにGoogle程度の(信頼性の低い)機械翻訳を使うな、という思いでした。オザケンさん自身がGoogle翻訳に頼っているということはないと思います。長年米国在住だった筈ですから。ただ、端的に例を示すために一般に馴染みのあるサービスを持ち出したんだと私は理解しています。
こちらでレスしたとおり。オザケンさんの主張のスタイルやこれまで主張してきたことなどは、私はファンではないので当然承知しておりません。そこで、あの1本のツイートに散りばめられた表現を一つ一つ拾って「解説」していきました。それが多くの方に伝わったのは幸いだったと思います。
私はこれまでその問題視されていたツイートも含めあまりオザケンさんの言動に関心がありませんでした。最初の訳語の指摘ツイートは、オザケンさんのこのツイートを見る前に投稿したものでした。でもこの一連のツイートを見て訳語のみでない文化的指摘も必要と感じた次第です。https://t.co/bRJZ00eeT2
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 27, 2020
そこで一つ一つ、このツイートに散りばめられた英語と訳語をピックアップしてそれぞれをプロとして解説した次第でした。私はオザケンさんの発信文化は知らないので、そのユニークな表現手法が意図することも著作で述べてきたことも知りません。それら前知識なしの指摘でした。https://t.co/BdpSRUI7Fl
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 27, 2020
2.訳語解説
①racismの訳語
racismとは厳密には「人種差別主義」。人種により差別することを至上とする主義です。その定義は米Merriam-Webster辞典によると、次の通りです。
米Merriam-Webster辞典における「racism」の定義(抜粋)
1「人種を人間の特性と能力の第一義的な決定要因とし、人種の相違が特定人種の生来の優位性を定めると捉える考え方」“a belief that race is the primary determinant of human traits and capacities and that racial differences produce an inherent superiority of a particular race“
2a「racismの想定に基く教義又は政治的プログラムであって、その原則を実行するよう設計されたもの」"a doctrine or political program based on the assumption of racism and designed to execute its principles"
2b「racismを基礎とする政治的又は社会的なシステム」”a political or social system founded on racism
3「人種的偏見又は差別」”racial prejudice or discrimination”
以下、定義1については歴史社会学者の野崎氏の翻訳を参考に改訳。
Meriam Webster の訳文がすこしおかしい。「人種が、人間の特性と能力の主要な決定要因であり、人種の相違が、特定の人種の生来の優位性をもたらすという信じ込むこと」です。
— Toshiro Nozaki (@ToshiroNozaki) July 28, 2020
この定義に基づく俗称が「人種差別」であり現在、一般にどの辞書でも定着した訳(定訳)となっています。人種を人間の至上の差別化要因とするイズム=主義であり、したがって「人種を至上のものとし、人種によって他の人種を差別することを是とする考え方」。
これが「人種差別主義」(racism)の意味です。
②discriminationの訳語
一方、老舗の英英辞書でも熟語であるracial discriminationは一語では解説されませんが、discrimination単体で「偏見に基づく言動や処遇」を意味し、racial discriminationの熟語の一部となったracialは「人種による」「~に基づく」「~に対する」の意となります。したがって「人種に対する偏見に基づく言動や処遇」すなわち人種に基づく具体的な行動を指します。
米Merriam-Webster辞典における「discrimination」の定義(抜粋)
1a「偏見に基づく、若しくは偏見的な見方、行動又は処遇」“prejudiced or prejudicial outlook, action, or treatment"
1b「個別ではなく無条件に区別する行為、慣行、または区別されている事実」"the act, practice, or an instance of discriminating categorically rather than individually"
racismが人種差別主義という「主義」であるのに対し、racial discriminationは「racismの発露によって生じる行動や言動や処遇」を意味します。偏見や無理解に基づくものであればracial discrimination、他の人種を劣等とみなす主義故の言動であればracist actとなります。
③systemic racismの訳語
最後に、systemicは、systematicとは異なり「システムの~」という意味ではなく、下記dの解説にあるように「経済、社会又は政治的に支配的な慣行の礎」あるいは総じて「全体に蔓延している状態」を指す形容詞です。
つまりsystemic racismとは「社会、経済、政治的に支配的で、全体的に蔓延している人種差別主義」を指します。これが、今『#BlackLivesMatter』運動により世界に知られるようになったアメリカ社会の深刻な病巣です。
米Merriam-Webster辞典における「systemic」の定義(抜粋)
a 「一般に全体に影響する」"affecting the body generally"
d「経済、社会または政治的に支配的な慣行の礎となるもの」
“fundamental to a predominant social, economic, or political practice“
一方で、社会にただ蔓延するだけでなく、法律によって体系化された人種差別をinstitutional racismまたはsystematic racism(制度的人種差別または構造的人種差別)と言います。人類史でこれに冠たるものが南アフリカが行った人種隔離政策「アパルトヘイト」です。これがまさに「システム化された人種差別」(systematized racism)です。ここで初めて「システム」が意味を持ちます。またアメリカ史上でも同様の「制度的人種差別が行われました。悪名高い「ジム・クロウ法」です。これも黒人と白人の権利や立場を明確に分け、黒人の権利を極限まで制限する人種隔離政策(racial segregation)でした。
米Merriam-Webster辞典における「systematic」の定義(抜粋)
1「体系に関わる又は構成される」"relating to or consisting of a system"
3「手順又は計画に準じて周到に」“methodical in procedure or plan“
最後に、Structural racismのstructureは「構造」すなわち社会構造を示します。かみ砕いていうと「社会構造によって生じる人種差別」のことを指し、一般には「構造的人種差別」を指すと解されます。
米Merriam-Webster辞典における「structural」の定義(抜粋)
2a「〜の、構造的に関わる又は影響する」
"of, or relating to, or affecting structure"
3.「コメント」スレッドについて
オザケンさんの以下の集約ツイートをすべて読んで、翻訳面だけでなく、文化人類学面でもコメントする必要があると感じ、以下コメントしました。
「大きな言葉(BLM)の機能の一つ」から学ぶことについてツイしたら、引用ツイ。批判の方、以下の僕のツイを全てお読みになって文脈をお取り下さい。
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) July 26, 2020
6/25https://t.co/XjnOABiXh2
6/16https://t.co/XlPyzp2nlb
6/9https://t.co/6rxUZPR7yT
6/3https://t.co/cKPSArabxq
6/2https://t.co/ukdWE3mIAT
結果、このツイートに付随するメッセージから、より大きな地球規模的意味での『人種主義』を表現しているのだということが理解できました。
差別はすでに内包されているのだと。
神話の時代、バベルの塔で神に挑んだヒトの言葉と種を分かつ制裁を神が下したときから原初の罪として存在する差別のことだと仰っしゃりたいのかと思ったのですが、違うようでした。
— Ozawa Kenji 小沢健二 (@iamOzawaKenji) June 8, 2020
ただ、古代文明の時代から存在する『人種主義』(太古の昔は勿論科学も政治も進んでいませんから「人種」ではなく「民族」「部族」単位で構造的差別=奴隷化を行っていました)を『システム』とすることには違和感があります。
話を大きくし過ぎると、主体が曖昧となり、実際に『システム』を創造した者らを免罪することになりかねません。しかし、アメリカに存在するracismを語る場合、これは別です。かつて「制度的人種差別」(institutional racism)であったのがものがその名残を残しています。
アメリカには確固たる構造的差別(systematic racism)が存在していました。それは建国者らによって創始された奴隷制(slavery)という制度。南北戦争を経て奴隷制が完全に廃止されても、この構造的差別は根深く残り、現在の社会全体に蔓延する差別の原型となっています。
詳しくはこちら👇
また法的にも、多くの方が指摘されたように、『合衆国憲法修正第13条』により、米国で奴隷制が「完全に撤廃されていない」ことは厳然たる事実です。『修正第13条』は、奴隷制を廃止した条項でありながら、例外を設けました。『「犯罪者を除く」すべての者が奴隷制から解放された』としたのです。そうして、解放された筈の黒人たちは、すぐに刑務所に入れられ、労働者として搾取されました。
つまり、各種制度により管理される人種的差別=「制度的人種差別」 (institutional racism)のシステムを作り上げた加害者たち存在しました。その後、このシステムは、民間企業を巻き込む巨大な『カネのなる木』となり、政府容認の制度的差別を含む「構造的差別」(systematic racism)を持続させるマシーンとなりました。これを存続(永続)させた加害者たちが存在します。
詳細は下記noteを参照。
だから、こと『#BlackLivesMatter』について語るのならば、アメリカには人種差別のシステム(=systematic racism)と社会全体的な人種差別(=systemic racism)の両方が存在し、ますます問題を難しくしていることから目を背けてはならないのです。古代文明の時代から地球規模の『人種主義』があるからではないのです。そこを免罪符にしたら、アメリカ人は「世界には古代から人種差別があった。西欧各国は奴隷制を合法としていた」と言い訳を与えるだけです。今も根深く残る systematic & systemic racism はアメリカ独自のものです。人類の太古からの罪ではなく近代アメリカの罪です。
そこは履き違えてはならないのです。
4.「提案」スレッドと提案の撤回理由について
人種主義という訳語は岩波の『現代の神話』(B・ダンハム)でも使われていたが、社会にある差別や偏見を正当化し政治的に利用するイデオロギーとして提示されるので、人種差別より更に危険なものという認識。 pic.twitter.com/jZlsIbOZEX
— Masafumitter (@masafumitter) July 27, 2020
このツイートを読んで、筆者は批判を承知の上で、翻訳者として、オザケンさんが提唱することに歩み寄ることができるのではないかと感じ始めました。それは、そもそも「○○主義」とスマートな表現に収めようとすることに無理があるのだろうと思えてきたからです。
まず、sexism等の一部例外を除き、思想に関わる「~ism」イコール「~主義」というのが、翻訳の定番(定型表現)となっています。ところが、この定型表現に合わせると思想に関わる「~ism」は全て「〇〇主義」と訳さなければならないような枷を自ら課してしまいます。
racismを『人種主義』とする訳は、97年にルース・ベネティクトの著書"Racism"が訳された時から継続的に使用されてました。この訳は近年「レイシズム」と訳されるようになりましたが、人文系では直近でも『人種主義』が標準的な訳(定訳)となっています。
このように、今年出た新訳ではracismの訳語は基本的に「レイシズム」で一貫していますが、上掲書の「訳者あとがき」にあるように、ベネディクトのこの同じ本が1997年に翻訳出版されたときは「人種主義」という術語が使われていました。 pic.twitter.com/sNVjBQNCdX
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) July 28, 2020
こうした「定訳」というのはいわば司法における「判例」と同じような効力を持ち、定着するとなかなかそこから逸脱することが難しくなります。しかし、ひとたび特定の分野を離れれば翻訳は「生きた言葉」に戻ります(ここが、もどかしいところでもあります)。
そうして「外」に出たracismは、メディア等で「人種差別」という用語に置き換えられ、これが世間一般の社会通念というレベルにまで浸透しました。「人種主義」という定訳は学術的表現となったのです。それをオザケンさんは、「人種主義」本来の意味を内包したまま取り戻そうとしています。
『人種主義』の定訳が確固とした定義を持つ概念であることは、ちょっとググれば誰もわかります。ですから、この定訳とそこに内包される定義を損なうことなく、「○○主義」という従来の定型から”脱した”形で「差別」という言葉を生きた訳として包含できないか、というのが今回の試みでした。
そのために、具体的な想定も行っていました。
例えば、オザケンさんのいう『人種主義』においては、その構造を意図的に作り上げ永続(perpetuate)させる加害者①と、その作り上げられた構造の中で意図的に多数派あるいは権力側の少数派として人種差別行為を行う者②と、意図せず無自覚にこれを行う者③というのがいると想定されると。だから『人種主義』に基づく差別は、その大枠で意図的でも非意図的でもあり得るし、自覚的でも無自覚的でもあり得ると。
オザケンさんは「人種差別」そのものを『人種主義』に置き換えようとしているので、そこに上記のような細かな分類は存在していないのではないか、ということを想定しました。
【提案】これまで本スレで指摘した内容についてご支持やご賛同いただいた方々の不評や反発を買うであろうことを承知で敢えて提案します。
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 28, 2020
歩み寄ることはできませんか?https://t.co/HWz7B9kbMo
そこで、私はこう提案しました。
日本語のニュアンスでは、「人種主義」と言うアカデミックな語彙だけでは、これまで「人種差別」と言う用語が普及してきた以上、これまであった「差別」と言う意味が失われることを懸念するのももっともだと思う。一方で、オザケンさんが提唱する、「人種主義に内包される意味を可視化する」こと、これも重要な試みだと思う。問題はそれを訳語としてどう表現するかであって、「人種主義」「人種差別」いずれの概念も正しく伝わりさえすれば、普及は難しくとも、せめてこの言葉をめぐる論争を小休止することぐらいはできると思う。さて肝心のその表現だが…
「人種主義による差別」又は
「人種主義に基づく差別」ではどうだろうか。
以前説明したように、人種差別行為には2つの種類があり、無知や偏見から来るdiscriminationと、人種至上主義に基づく差別としてのracial actがある。act of racismと言い換えてもよい。
この後者のact of racismを「人種主義に基づく差別」とする。
今のところはこのぐらいしか案が浮かばないが、引き続き考えてみる。皆さんも少し頭を柔らかくして思索してみてはどうだろうか。メインストリームな言葉になるかはともかく、言葉が進化する過程に、関わってみたいと思いませんか?
ところが、この提案について議論を始めた矢先にある事実が発覚しました。
黒人記者が語る「抗議デモ」と「人種主義」 知らないうちに、死んでるのかもしれません https://t.co/gFuHdeO9oF @Toyokeizai オザケン @iamOzawaKenji さんら複数により翻訳されたこの記事。#差別 #人種差別 の語句を一切使わず #人種主義 の語句のみを取捨選択して訳された意欲的な記事でした。
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 29, 2020
このオザケンさんと有志の方々で翻訳・編集した記事に、「人種差別」や「差別」の用語が一切使われないままracismもracistもracialもすべて「人種主義」のみで表現されていたことがわかったからです。ここで、オザケンさんは明確に「翻訳編集」を担当されたと記載されています。
議論の中でオザケンさんを擁護する方々は口々に、「小沢さんは(人種主義と人種差別を)置換えたいのではなく、差別以上の問題だと注意喚起している」だとか、「2つある表現のうち1つを取捨選択するのならば、もう1つは落とされる」というのはなぜ?」と、オザケンさんの意図に「置き換え」はないと、信じて疑わないことを表明しました。私も、最初はそれで信じかかっていたのですが、残念ながら事実は異なることが判りました。
※ライブ和訳版のYouTube動画も確認しました。
早速、原典を辿り英語原文と日本語訳文の確認を行いました。
すると、以下のことが確認されました。
①日本語訳文には「人種差別」という訳語が一切使われていない。
一つ具体例を示します。以下はオザケンさんらが翻訳を担当した記事です。この記事はページ毎掲載となっているので印刷モードで表示してページ内検索した結果です。下に検索結果と件数が示されます。左が「人種差別」右が「人種主義」です。これが『取捨選択』の結果です。https://t.co/9xsN5xlGz3 pic.twitter.com/4GBaGrSAYE
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 29, 2020
それだけではありませんでした。
②「差別」という用語もゼロ
ついでと思って「差別」でも検索したら衝撃の結果が…。
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 29, 2020
一語も使われていないみたいです。。。 pic.twitter.com/o8sDk9r23S
さらに原典英語版では、各種キーワードの検索結果は以下の通りでした。
()内は日本語版での訳語です。
③コンテクストに応じた訳し分けすらない
・0件 - discrimin (該当なし)
・1件- racial(人種的)
・4件 - racism(人種主義)
・4件- racist (人種主義)※1
・3件 - systematic racism (構造的人種主義)※2
※1: note版で後から追加
※2: 学術表現。本来は「制度的人種差別」
原文を確認しましたがdiscriminで検索してもヒット0でした。検索結果とキーワードそしてその翻訳記事での訳語は次の通りです。
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 29, 2020
・0 - discrimin (該当なし)
・1 - racial(人種的)
・4 - racism(人種主義)
・3 - systematic racism (構造的人種主義)※
※学術表現。本来は「制度的人種差別」 pic.twitter.com/dXbb6yZzr7
このうち、とくに問題視したのがsystematic racismの訳語です。この用語の訳語は、あらゆる媒体・論文で「構造的人種差別」 あるいは「制度的人種差別」と表記されるものです。「構造的人種主義」は、googleで検索してもこれらの表記に置き換えられてしまうほどにマイナーな表記です。学術論文は引っかかりますが、それ位のものです。(実際にお試しください)
つまり同じracism(=人種主義) の訳語を使った熟語でも、「人種主義体制下で生じる racism」を意味する systematic racismは「人種主義体制下」であることを前提に行われる個又は集団(組織含む)の『行為』として「構造的人種差別」あるいは「制度的人種差別」と表記分け(訳し分け)されるべきなのです。たとえば、翻訳記事での以下の文がありました。
訳文
“もうぼくたちには、白人至上主義と構造的人種主義について論議している余裕はありません。“
原文
"We can no longer afford to participate in theoretical discussions of white supremacy and systematic racism. "
拙訳
“私たちはもはや、白人至上主義や構造的人種差別について理論上の議論を戦わせている状況にないのです。”
この文は、白人至上主義という人種主義体制下の「構造的人種差別」を言い表していると捉えるのが正しい解釈です。そして、この白人至上主義という人種主義体制下で行われる構造的人種差別すら「構造的人種主義」と一律に訳し、これを「翻訳編集」でも校閲でもノーマークで出してしまう姿勢に愕然としました。無論、これをそのまま掲載した『東洋経済』もですが。
そこで、残念ながら本提案は一旦保留することにした次第です。
だから、引き続き翻訳者として指摘し続けます。
本件、下記の通り事態急変により保留とします。表現の併存ではなく淘汰が目的ならば、残念ながら歩み寄りの余地はなくなります。完全にその可能性は消えた訳ではないと、一縷の望みを残しつつも、本提案は一旦保留とします。https://t.co/3z2YtYpJOb
— 💫T.Katsumi (@tkatsumi06j) July 29, 2020
参照
●『合衆国憲法修正第13条(13th)』のNetflixドキュメンタリー
※YouTubeで無料視聴可!勿論日本語字幕対応です。
この機会に是非!
●同業でありながら音楽ライターでもある浅沼優子さんの論考
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